第6話 それだけでいい
「ちかどくんよ。このままでいいのかい?」
生徒会の会議の最中。ななみはちかどさんにいきなり言った。
「会議中ですが」
「会議なんて最初から答えが決まっているようなものじゃないか」
後で知ったが、昼休み、放課後など、何度もちかどさんのところに行って、この話をしたらしい。
迷惑がられても、追い返されてもメゲずにだ。
「だって死期が近いのだろう? 何かしてやりたいはずだ」
ちかどさんの表情がこわばった。それはしてはいけない話なのだ。
「あなたには関係ない」
「無くてもわかる。良賢君の気持ち」
そう言い、ちかどさんの隣にまで歩いて行ったななみ。何を考えているか、いきなり服を脱いでちかどさんに自分の体の傷を見せたのだ。
「バカおまえ。いきなり何を!」
「この傷が知ってる。一人で死ぬのは寂しいって」
俺は慌ててななみの後ろから覆いかぶさった。ななみは昔の怪我で体中に怪我の跡が残っているのだ。
「良賢君に何もしないと後悔するぞ! 鷲谷が知ってる!」
いらん事を言うななみ。
ああ。たしかにあそこで何もできなかったら俺は死ぬほど後悔していただろうな。
「だからといって、無関係の人の無関係の話に首を突っ込むんじゃない」
「突っ込む! この事に関しては私は先輩だ!」
俺はジタバタと暴れるななみを押さえつけた。
「すまない。こいつの事は無視してもいいから」
そう生徒会のメンツに言うと会議をつづけた。
俺はななみを生徒会室の外に放り出してカギをかけて締め出してやった。
会議が終わると鍵を開けてやる。
「私は間違ってないのに」
「ほら、そこ通るぞ」
生徒会のメンツは俺たち以外は家の仕事がある様な奴ばかりだ。こういう奴をはじいてくじ引きをすればいいのに、教師たちも気が回らないものだ。
「断らないこいつらにも問題があるが」
家の仕事があるなら断る理由になるはずだ。だが断らないこいつらにも、何か問題があるようである。
意地を張って体育座りをしているななみの事をヒョイと持ち上げる。ななみの事を出口からどけると、みんな退室していった。
「みんな訳ありなんだよ。多分いろんな意味で」
そうなのだろうが俺が気にする事じゃない。特殊な家の生まれっていう悩みもあるのだろう。
俺なりに彼らの事は調べた。ななみが何かアホな事を考え出さないようにだが。
彼らは下校時刻になってもなかなか帰ろうとしなかったり、家に不満がある様な事を言っていたり、ななみが喜びそうな要素がいくつもあった。
「訳ありなのは知っている。私は生徒会長としてだね」
「生徒会長だからって余計なお世話なんだよ」
こいつは彼らの事情に首を突っ込みたいのだ。だが、そんな事は俺がさせない。
「ほれ。お前は起きろ」
腕を取ってななみを立たせる。
「余計なお世話なんて事知ってるよ」
小さくこいつは言った。この言葉にどんな意味があるのか、俺にはわかりかねる。
俺はななみを連れていつもの下校ルートを歩くところだ。
学校を出ると俺たちを待ち伏せしている人に出会う。
「良賢君の気持ちって何?」
「ちかどさん!」
ついさっきまで、自分の説得にだれも耳を貸さないのを見て、かなりしょげていたななみ。
「君は私の声を聞いてくれるのか!」
ちかどさんが現れた事でいきなり起き上がった。
「参考までに聞きたい」
いままでしょげていたななみだが、いきなり勢いをい取り戻した。
「それでは教えてやろうではないか」
まるで、どこぞの教授のイメージの真似事のようにタバコをふかす真似事をし始めるななみ。
「私の経験上」
その言葉から始まったななみの言葉。おどけて、悪ふざけ半分かと思われるような態度で言い始めたのであるが内容は聞く価値のあるものだった。
「死ぬのは怖い。だけど逃げられない。なら生きている間だけでも誰かの手に触れていたいし、死ぬ瞬間まで死の恐怖を紛らわせて何かをしていたい。指一本動かせずにこれから自分が死ぬのを待つだけと考え続けるしかない。それは拷問だ」
ななみの言葉をちかどさんは聞いていた。
「誰かに抱きしめてほしい。死以外の感覚を誰かに与え続けてほしい。手を握ってもらえるだけでも自分は一人で死ぬんじゃないんだと実感できる。死ぬのが少し楽になる」
俺も、ななみの言葉から耳を離す事はできなかった。
死の淵から生還したななみの生の言葉だ。
「良賢君を助けたいのに」
ちかどさんは死の淵に立たされる良賢君の事を考えていたらしい。
「恥ずかしがったり、ためらったりしないでほしい。私にぬくもりを与えてくれ」
ななみが言うとちかどさんは膝を折った。
「ねえ。何をしてあげるれるのか教えて」
ちかどさんはななみに言う。
「ああ。喜んで」
ななみは、ちかどさんに返した。
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