第4話 ななみの策略

「糸居君。忍者の力を借りたいのだがよろしいだろうか?」

「先輩だぞ」

 昼休み、ななみは糸居先輩のところに行くと言い出した。失礼をしないようにと俺も同行したが、ななみは早速失礼な事をしやがった。

「えーっと。生徒会長」

 かなりななみの事を警戒している糸居先輩。ななみにビビっている態度で言った。

「ななみでいいぞ糸居君」

「お前は糸居先輩と呼べ」

 大体、忍者の力とは言うが観光業のなんちゃって忍者に、そんな力があるはずもない。

「寺海さんの事を知りたくはないか?」

「どこまで知っているんだ?」

 ななみの言葉に糸居先輩は意外な反応を見せた。

「君が寺海さんの事を気にしているのは気づいていたとも。おっとりお姉さんタイプが好きなのだとリサーチも済んでいる」

「なんで知っているのかを、こいつに聞くのは無駄です」

 こいつはバカなくせに人の情報を集めるのは上手い。

 普段から人にバカを曝している甲斐があるというものだ。

「生徒会長からは聞かないよ」

 糸居先輩の返答だ。

 そりゃ当然の反応だ。こいつには恨みもあるからな。世話になりたくないし、ひっかきまわされたくもないだろう。

「ちかど君の最も気になっている男性とか知りたくはないかい?」

 それに糸居先輩はピクリと反応した。

「ダメです。こいつの口車に乗ったら……」

「助手よ。余計な事を言わないでくれ」

 誰が助手だ。

「口車に乗ってみるのも一興というものだと思うぞ。私には膨大な情報網がある。上手く使っていくと君にも利益があるだろう」

 このバカは一体どこでそんな言葉を覚えやがった?

「本気にしませんよね?」

 糸居先輩に確認を取った。

「君とは生徒会だけの付き合いにしたいから……」

 糸居先輩はそこでそう答えてくれた。

「賢明です」

 そうは言えど、賢明な判断と言うのはおかしな話だ。普通の判断力があればその答えに行きつく。

 元々、熱意や目的があって集まった生徒会ではないのだ。校長からの通達を生徒に伝え、都合のいい時だけ雑用をする役を引き受ければいい。

「なぜ私の事が信用できないのだ!」

 本気でわからないらしいななみは、呆然とした顔で自分に背を向ける糸居先輩を眺めていた。


「これは最初の予定通りにいかないぞ」

「お前の予定ってのを詳しく聞かせてみろ」

 ななみは何か目論見があったらしい。聞くのもバカらしいが、こいつの計画が無意味である事を分からせるためには、はっきり言ってやるしかない。むしろ言っても足りないと思われる。

 昼休みの時間もまだ半分以上残っている。

 ななみが作戦会議とよぶ実質反省会が行われている。良一も一緒になってななみの説得に参加してくれていた。

「お前の友達になろう作戦はおかしいんだって。挨拶とかそういうのをすっ飛ばしているだろう?」

「今からでも普通にしろよ。ふつうにしてればお前は友達作れるんだから」

 良一がいい事言った。まさしくそれで解決する話だ。

「普通にしていれば鷲谷の妬みを買い続けている男が何を言う」

「何を根も葉もない事を言い出してんだよ!」

 良一は、ななみの言葉は嘘であると分かってくれているようだ。俺の事を見て何とも言えない顔で苦笑いをしてきた。

 ななみはそれから持論を続ける。

「これは人助けなのだ。寺海の一番気にしている男子の事をきけば、君らも協力をせざるをえないと思うぞ」

 またこいつは適当な事を言い出しやがった。

「聞いてやる。言ってみろ」

 こいつはどうしても言わなければ気が済まない。聞いたうえで思いっきりツッコミを食らわないとならない奴だ。

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