第3話 名采配

「皆秘密を明かしあい、最高のスタートを切れたな。私の名采配!」

 帰り道で自分の行動を自画自賛していたななみ。

「みんな迷惑極まりないって顔してたぞ。渚君なんて家が侍なのをバラされて悔しそうだったし」

 巫女と忍者と侍とバカのそろった生徒会。

 なんとも個性豊かで面白そうである。だが本人たちはその事を明かしてほしくないらしい。

 うちの高校は小さな港町にある高校だ。

 朝には漁船が港に停泊し、競りが行われて活気があるように見える。

 だが、競りが終わるとそれまでの活気は嘘のように消え、のどかな海の街の姿となる。

 生徒会の会議は下校時刻になるまで続き、夕方になった頃になって終わりを告げた。

 俺もななみも家に帰ってやりたいことなんてない。いくら遅くなっても困らない身であるが、あの三人は家の仕事もありこれから生徒会の仕事も大変だろう。

「まったく。いきなりやりにくくなるような事をしやがって」

 ななみはあえて防波堤の上を歩いている。子供だから高いところが好きなのだろう。

「下から見あげるなよ」

 ななみは俺の事を見下げながら言う。防波堤の高さは大体一メートル。その上に立てば、ななみのスカートがちょうど俺の目線の高さにある。

「短パン履いているんだろ。いいんじゃないのか?」

「そういう問題じゃない!」

 こいつは、かわいいからとスカートを短くしている。だが、誰かにパンツが見られないように下に短パンをはいていた。

 気にするところを間違っている。

「私はな。あいつらは生涯の親友になれると思ってる」

「初対面で亀裂を作っていたが?」

 あいつらを全員敵に回したのに気づいていないななみ。

「あいつらいい奴らだからな」

 ニヒヒといった感じの屈託のない笑顔を見せるななみ。

 どこかであいつらの評判を聞いているのだろう。だが、向こうさんがななみに対してみんなと同じように優しく対応してくれるかどうかは謎であるのだ。

「私を信じろ。生徒会長に選ばれた、今ノリに乗っている学校一の美少女だ」

 言わせてやろう。

 確かにこいつは美少女だ。明朗闊達で頬からのびる傷跡が、むしろチャームポイントにすら見えてくる奴だ。

「明日から私は、学校の事を真摯に考える世界一の生徒会長になる」

 またこいつは余計な事を考えているようだ。

「トラブルを起こすなよ」

「トラブルを解決するんだ」

 その返事からは、それこそトラブルの匂いしかしない。

 下からななみの顔を見上げるといつもの明朗闊達な笑顔を見せていた。その小学生のような屈託のない笑みだけは俺は好きである。

 その笑みは俺の事を見下ろして俺の事を見下す悪意のある顔に変わった。

「だから見上げるなって言ってるだろ! エロガッパ!」

 そう言ったななみは俺の顎をサッカーボールのように蹴り上げやがった。


 次の日、俺が教室に入ると、ななみは自分が生徒会長になった事をクラスのみんなに自慢をしていた。

 いつもは遅刻ギリギリに学校にくるくせして、こういうときは俺よりも早く来てクラスのみんなにあらぬ噂を振りまいていく。

「来ましたな。我が親友にして生徒会のパートナーの盾梨君!」

 盾梨君とか呼ぶな気持ち悪い。

「誰が生徒会のパートナーだ。ほとんど俺はお前のお目付け役だぞ!」

「そうだろうな」

 俺の言葉に同意してくれたのは俺の親友の良一だった。

「ななみ! 嘘を言うんじゃない! 本当は鷲谷の方が生徒会長なんじゃないのか?」

「ばっか! 俺が生徒会長になったら、絶対にななみを補佐になんか選ばん!」

 良一は周囲の女子達から人気のある奴だ。

 スポーツ万能。成績優秀。背も高くて仲間も多い。だからといって堅苦しくもない。

 一部の良一をねたむ心の狭い男子以外からは、人気をもっていた。

「たのむー。お前も生徒会に入ってくれ」

「悪いな。昔からクジ運が悪くて」

 良一は俺の頼みを丁寧に断りやがった。

 せめて、ななみの事をうまく扱うアドバイスをいただきたい。良一は女の子の扱いにはなれっこのはずである。

「犯すとか」

「おいこら。最悪のアドバイスをするんじゃない!」

「だけど、こいつは一回大人しくさせるしかなさそうだぜ」

 最悪のアドバイスかと思えば、一考の余地のありそうな言葉を言った。そうはいえ、ななみを大人しくさせるにはいろいろ方法がありそうである。

「おっとー。これは通報かなー?」

 俺らの会話を聞いていたななみは言う。

「親友を売る気かね君?」

 ななみの軽口にチョンと乗っていく良一。俺もこいつのようにななみの言葉をあしらえるようになりたいものである。

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