第24話

 地下スタジオには、レモンサーカスとチープヒップスが集まっていた。


 奏美がバンド組んだことによって、入り浸る人数が増えてしまった。奏一にとっては、頭の痛い状況である。ここで練習しているわけではないが、それが救いといえるかどうかは、微妙だ。

 これは、仕事場をどこかへ移すべきかも知れない。流石にこの人数はキャパオーバーだろう。

 そんなことを考えていて、思いついたことがあった。


「なあ、拓海達は冬休みの予定とかあんのか?」


 ソファに座れず、ギターを抱えて胡坐をかいている拓海が顔を上げた。床には歌詞を書いた紙が転がっている。曲を作りながらコードをふっていたようだ。


「俺は特にないっすけど、めぐみは?」


「掛け持ちのバンドもないしねえ。何もなーし」

「なんやメグ、クリスマスを一緒に過ごす彼氏とかおらへんの?」


 女子ドラマー同士、すっかり意気投合したKARENであったが、女子トークはまだしていないようだ。


「一応コイツなんだけど、別にロマンチックとか求めてないし」

「えー、居酒屋と付き合うとんの? マジかー!」


 妙なニックネームを付けられてしまった玲は、笑って誤魔化すくらいしか道は残されていない。


「そっか。そんじゃあ、親父と紗季連れて来っから、チープヒップスの皆さまは、演奏の準備をお願いしまーす」


「ちょっとお兄ちゃん? まだ曲出来てないよ?」

「歌詞なくてもいいなら、何かあんだろ?」

「なんで?」


「あのな奏美。お前と拓海は、うちの事務所に所属してるからいいんだけど、玲とめぐみは何の契約も約束もしてないだろ? 紗季やレモンサーカスの活動のことを考えると、気軽にここに居て貰うわけにもいかないんだよ」


 奏美のバンド仲間ではあるが、二人は関係者ではない。この地下スタジオは秘密がいっぱいである。それこそ関係者以外立ち入り禁止なのだ。


「そこで、だ。二人の実力は知ってるけど、一応社長の前で演奏してもらって、こっちからオファーするってかたちにしようかなと」


「言ってることは分かるけど、なんで突然そんなこと言い出すの?」


 ちょっと半ギレな奏美を相手だが、奏一もここは引き分けにはいかない。


「今まではそんな必要がなかったからなあ。それこそ関係者しかいなかったしな。それに、所属っつっても、秘密保持契約だけ結んでもらえればいいし。バンドとしちゃ損はないと思うけどな」

「それは分かった! なんで今な――」


「―― 奏美ちゃん」


 兄妹の言い合いに割って入ったのはめぐみだった。


「先生の言うことが正しいよ。拓海だってよく考えたら、もうプロだし。叩きだされずにチャンスが貰えたんだから、いいじゃん。な? 玲?」

「え? あ……うん……。でも俺……、そんなプロとか考えてなかったっていうか……」

「はあ? 何今更うじうじ言ってんの?」

「いや、だって……、楽しいからやってただけでさ。何かその本気のノリっていうの? 何か着いていけてないっていうか……」


 これは奏一としては予想外の展開だ。


「ちょっと待てよ、この野郎! やる気もねえのにアタシらと組んだのかよ!」

「そうしないと、めぐみが付き合ってくれないって雰囲気だったから……」

「ふざけんなっ!」


 チープヒップスは早くも空中分解寸前である。


「こうなる気はしてたんだよなあ……」


 そう呟いた拓海の横を通って、めぐみは玲に掴みかかった。


「何やの、居酒屋。そんなアホ、いてまえぇ、メグ!」

「うわぁ、ボクこんなに激しい修羅場、始めて見た」

「修羅場だー!」

「あーもう、アミ煩い」


 カオスだ。

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