第16話 激闘の末に


 いきなり僕と魁斗の立っているところの床が光り出した。

 瞬時に、僕と魁斗は攻撃のサインだとわかった。

 そして回避は不可能だと察し、二人で同時詠唱をして、バリアを張った。


 無詠唱のスキルを持っている僕があえて詠唱をする。

 それは、これから放たれる攻撃が超即死級であると察したからである。

 普通、最強級の攻撃をするのは一番最初か一番最後であるからだ。


 バリアに魔力も惜しみなく使った。

 僕の残存魔力3750万のうち、400万ほどの魔力を使った。


 そして1秒もしない間に半径10mほどの巨大魔法陣が現れ、熱戦が放たれた。

 僕が短距離転移で回避しなかったのは正解だった。

 短距離転移は最高5mしか転移できない。

 しかも、一度短距離転移を使うと数分間は使うことができない。

 だが、この攻撃は半径10mの範囲で放たれている。つまり、回避は不可能だった。


 熱戦が放たれたのは、数秒間。

 しかし、それは何分間もの時間に思えた。

 僕達は必死に耐えた。

 一時的に数千度にも達したが、バリアはギリギリのところで耐えてくれた。


 だが、そこに数千キロトンの爆裂式の描かれた魔法陣がいくつも投入される。

 それによってバリアが壊れた。


 バリアが壊れると、残る防御壁は魔力障壁のみだ。


 僕は短距離転移の魔法を僕と魁斗にかけて、5m短距離転移をする。

 巨大魔法陣による熱戦攻撃は終わっていたので、攻撃から回避ができた。

 さらに100万の魔力量を消費した。


 その瞬間、攻撃が止んだ。

 異様な気配が漂う。


 菊池悠斗の気配は察知できない。


 そこから僕は予測した。

 これは一斉攻撃の前触れであると。


 僕と魁斗は背を合わせて敵の攻撃を待った。


 その間にシアルは神気火炎雷の魔法を発動できるように、術式を構成している。


 そして僕は5時の方向から殺意を検出した。

 瞬時に時空倉庫から剣を取り出し、殺意に向けて振るった。


 だが、殺意はフェイントだった。


 殺意のあったところに、菊池悠斗はいなかった。

 意表を突かれた僕は、0時の方向から放たれた爆裂魔法陣の対応に遅れてしまった。

 それも、数万キロトンの爆裂魔法陣。


 魔力障壁によって防御することはできない。


 しかし、その爆裂魔法陣を魁斗が剣で粉砕する。

 剣には150万近くの魔力が込められており、魔法陣を魔力で相殺することができた。


『ごめん、ありがとう。』


『それぐらい大丈夫さ。』


 魁斗は言うが、これは僕の失敗だ。

 5時の方向は魁斗の持ち場である。

 なので、この殺意の対応は魁斗に任せればよかったのだ。


 しかし、僕は不覚にもその殺意に向かって剣を振るってしまった。

 それにより、本来僕が対応すべき0時方向の爆裂魔法陣に対する対応が遅れた。


 共闘の時、相手を信じるのは重要である。

 それができないと、共闘ではない。


 単独戦闘を×2しただけだ。


 まあ、過ぎたことを悔やんでもしょうがない。


 今の状況に目を向けよう。


『魁斗、残っている魔力は?』


『ざっと50万。』


『少ないね。魔力譲渡する?

 私には魔力神速回復のスキルがあるし、3400万程度の魔力が残っているから。』


『ああ、頼む。』


 僕が魔力を1500万譲渡した。

 だが、譲渡効率は8割ほど。


 よって魁斗の残存魔力は1250万、僕の残存魔力は1900万となった。

 それにしても元魔王和也との戦いに比べたら魔力消費量が格段に高い。


『できるだけ早く戦いを終わらせたいな。』


 だが、敵は現れない。


 待ち時間があるとその間に魔力を回復できたり、シアルが術式を構成したりできる。

 だが、集中力の消費というものが存在する。


 集中力を消費することで警戒が疎かになり、奇襲を受けて即死とか嫌だ。


 なので、菊池悠斗には早く現れてもらいたい。


 しかし、その願いは虚しく、爆裂魔法陣が撃ち込まれる。


 今日の天気は爆裂魔法陣一色だ。

 僕は魔法陣に魔力をぶつけて相殺する。


 時々、幻影魔法陣により菊池悠斗のホログラムが現れたりする。

 ホログラムって言っても、普通のホログラムではない。

 もし、街行く人がこれをホログラムだと言っても信じる人はいない、というレベルのホログラムだ。


 僕は殺意のフェイントのこともあり、鑑定してホログラムだと見破っているが。


 ---本気で不味い。このままじゃジリ貧だ。


 魔力は少しずつだが減ってきている。魔力神速回復を持っている僕でさえ。

 なんとか菊池悠斗を探し当てれないか、と思案する僕だった。


 爆裂式はすでに何百個撃ち込まれたことだろうか。

 さすがに魔力も限界に近づきつつある。


 もはや1000万しか残っていない。


 そういえば、菊池悠斗はどこにいるのだろうか?


 多分、外部から監視していて、そこから爆裂式を送り込んでいるのだろう。

 ならば、どこから監視しているのか?


 その時、気づいた。


 爆裂式が送り込まれているのなら、爆裂式を送り込んでいる場所が存在することになる。

 もしかすると、そこが菊池悠斗のいる場所かもしれない。


『魁斗、打開策を思いついた。

 一時的に防御を魁斗に託すから、数秒間なんとか爆裂式の耐えて。』


『ああ、いいぜ!』


 そう言って魁斗は快く引き受けてくれた。

 そして、僕は一つの爆裂式に向かって鑑定魔法をかける。


 その爆裂式はどこから来ているかわかった。


『3時の方向、約30m先!』


 あそこには人の気配もないし、人影もない。

 だが、どうせ幻影魔法と隠蔽魔法を使っているのだろう。


 勝負は一瞬だ。

 僕は熱力属性の神気魔法の詠唱をする。


 その魔法を菊池悠斗のいるであろう場所に向かって放つ。


「まさか、俺の場所がわかるとはな!」


 そう言って菊池悠斗は現れ、僕の魔法を簡単に破壊する。

 だが、それは本命ではない。


 本命はシアルの神気火炎雷だ。


 シアルはこれまで戦闘に参加してこなかったが、それは神気火炎雷の詠唱を行なっていたからである。

 その神気火炎雷には数百万近くの魔力が注ぎ込んである。


 魔法を破壊するには、その魔法と同じだけの魔力量をその魔法にぶつけなければいけない。

 よって、数百万近くの魔力が注ぎ込んであるこの魔法は破壊されない、と思って僕の勝利をほぼ確信した。


 だが、菊池悠斗は見たことのない術を始めた。


『空中に文字を描いてる?』


 それも、目に止まらぬ神速で。

 そして、なんとシアルの渾身の一撃は破壊された。


『『『何!?』』』


 三人の声が揃った。

 何があった?


 まあ、それはよい。


 それよりも、この渾身の一撃が効かない、だと!?


 だとすれば、僕の攻撃魔法はほとんど通じないことになる。


 僕は舌打ちをして、菊池悠斗の方向へ駆け出す。

 そして残り5mほどになった時、短距離転移をして彼の後ろに斬りかかる。


「おっと、危ね!」


 だが、それは回避された。

 そして反対側から魁斗も斬りかかる。


 いいコンビネーションだったが、それも間一髪でかわされてしまった。


 菊池悠斗はそのまま2mほど下がり、地面を蹴った。

 すると、そこを中心に新しい魔法文字が浮かび上がり、魔法陣が現れる。


『絶対回避!』


 シアルの声に合わせて僕と魁斗は後ろに大きく回避。


 僕達はなんとか魔法陣から逃げることができた。

 その0.5秒後、魔法陣が大爆発を起こした。

 しかも、今までの爆裂式よりも高い十万キロトンレベルの爆発である。


 だが、これは序の口に過ぎなかった。

 至ることろでランダムに爆裂式が発生している。

 しかも、砂が舞い上がり視界を悪くしている。


 これでは、どこに回避すればいいのかわからない。

 なので、僕と魁斗はバリアを張った。


 刹那、僕達の真下に魔法陣が現れた。

 そしてその魔法陣による爆裂をもろに受け、バリアと魔力障壁が破壊された。


 さらに、菊池悠斗はさらなる魔法陣を展開した。

 それは、感電の魔法陣。


 それが半径数十mに渡って展開された。


 今の僕や魁斗はバリアや魔力障壁が破壊されている。

 よって、僕達を守る防殻は何もない。


 即ち、この魔法陣が僕達に直撃すれば戦闘不能になる。

 そして、この魔法陣が発動した。


 菊池悠斗は、砂が舞い上がるこのグラウンドでボソリと呟いた。


「終わったな。」


 と。

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