第15話 2度目の戦い


「どうだ?気に入ってくれたか?この魔法陣は。」


 彼は単刀直入にそう訊いてきた。


「って、この魔法陣は君が描いたの?」


「そうだぜ。」


 そういって彼は口角を上げた。


「すごい巧妙な魔法陣ですね・・・。」


「いや、これ失敗作なんだ。

 時間停止の魔法陣なんだけど、発動した術者も時間停止しちゃってさ。使えないんだよ。

 これ作るのに2年間もかかったんだけどな。

 2年間の歳月が水の泡さ。」


 彼は自嘲した。


「へぇ。」


「そうだ、俺の魔法陣研究所行ってみないか?」


 そして、彼に誘われた。


『行っても大丈夫かな?』


 念を押して、シアルに訊いてみる。この誘いが危険じゃないかどうか。自分一人だと判断を誤るかもしれないからね。


『敵意は検出されませんでしたし、大丈夫かと。』


 その言葉に従い、僕は行きたい、と言った。


 そして、彼について行き、教室から出ると魁斗がいた。


「わ!なんでここにいるの?」


「いや、普通に帰ろうとしたら、君と菊池悠斗の会話が聞こえて、立ち聞きしてたんだ・・・。」


 魁斗は横を向きながら言った。というか、気配消すなよ。魁斗がいるってこと気づかなかったじゃないか。


「君も俺の魔法陣研究所に行きたいのか?」


 菊池悠斗が訊いた。


「興味はあるから、行きたい。」


「ああ、いいぜ。」


 彼は許可を出した。

 そして彼は階段に行き、二階の踊り場で止まった。


 彼は青色のノートから一枚の魔法陣をだした。

 その魔法陣を踊り場の中央に置くと、その場所に黒い亜空間の穴ができた。


『こんなのがあったなんて気付かなかった・・・。』


 昼休みにこの階段は通ったのに。


『ああ、俺もだ。』


 魁斗も二ヶ月ほど学校生活をしていたが、知らなかったらしい。


『というか魁斗って魔法とかできるの?』


『お父さんやお母さんぐらいには使えるし、戦えるぜ。』


 拳をグーにして言った。


「おい、何してんだ?」


 悠斗から声が掛けられた。


「今行く。」


 そして僕と魁斗はその亜空間に入った。

 そして、気付いた時には、封印術式が張り巡らされていた牢獄の中にいた。


『なんだ!?ここは!?』

『毒ガスが充満しています!』

『俺も紫苑も絶対環境のスキルを持っているから数分間は大丈夫だが、早く封印術式を解かないと不味いぞ!』


 僕とシアル、そして魁斗は封印術式を必死で解いた。

 脳がパンクしそうな計算量だ。

 しかも、その間に爆発が起こる。


『何だ!?』


 シアルが瞬時にバリアの魔法を展開したことによってなんとかなった。

 しかも、何回も爆発が起こる。

 その爆発は一回だけで何千キロトンもの威力を持つ。

 広島に落とされた原爆が20キロトンである。

 その何百倍もの威力がこの爆発に含まれているのだ。


 さらに、その爆発が何十回も起きている。

 もはやバリアは限界寸前であった。


 だが、持ち前のチートな魔力量でなんとかゴリ押しをする。


 この牢獄は和也さんの使った無限牢獄ではない。

 よって、封印術式を解くことができる。


 封印術式を解き、牢獄を脱出した。そして爆裂式で壁を破壊し、外へ出る。どっかの草原のようだ。傾きつつある太陽が見える。そして、十メートルほど先には菊池悠斗がいた。


「睡眠魔法陣が効かない上に、催眠魔法陣も効かない。

 さらには最高級の封印術式まで効かない、か。」


 そう言って彼は戦闘態勢をとった。


『これだけ敵意むき出しなのに敵意を検出してない!?』


 シアルが驚愕している。


 確実に敵意があるのに、敵意が検出されない。

 それは砂わち、それだけの隠蔽魔法が使えるというわけだ。


 それに、敵意を封じる魔法は隠蔽魔法の中でもトップクラスに難しい。


 ・・・結構な強敵かもしれないぞ、これは。


 僕と魁斗も戦闘態勢をとった。


 そして、地球帰還後二度目の戦いの幕が開けた。


 いきなり僕と魁斗の立っているところの床が光り出した。

 瞬時に、僕と魁斗は攻撃のサインだとわかった。

 そして回避は不可能だと察し、二人で同時詠唱をして、バリアを張った。


 無詠唱のスキルを持っている僕があえて詠唱をする。

 それは、これから放たれる攻撃が超即死級であると察したからである。

 普通、最強級の攻撃をするのは一番最初か一番最後であるからだ。


 バリアに魔力も惜しみなく使った。

 僕の残存魔力3750万のうち、400万ほどの魔力を使った。


 そして1秒もしない間に半径10mほどの巨大魔法陣が現れ、熱戦が放たれた。

 僕が短距離転移で回避しなかったのは正解だった。

 短距離転移は最高5mしか転移できない。

 しかも、一度短距離転移を使うと数分間は使うことができない。

 だが、この攻撃は半径10mの範囲で放たれている。つまり、回避は不可能だった。


 熱戦が放たれたのは、数秒間。

 しかし、それは何分間もの時間に思えた。

 僕達は必死に耐えた。

 一時的に数千度にも達したが、バリアはギリギリのところで耐えてくれた。


 だが、そこに数千キロトンの爆裂式の描かれた魔法陣がいくつも投入される。

 それによってバリアが壊れた。


 バリアが壊れると、残る防御壁は魔力障壁のみだ。


 僕は短距離転移の魔法を僕と魁斗にかけて、5m短距離転移をする。

 巨大魔法陣による熱戦攻撃は終わっていたので、攻撃から回避ができた。

 さらに100万の魔力量を消費した。


 その瞬間、攻撃が止んだ。

 異様な気配が漂う。


 菊池悠斗の気配は察知できない。


 そこから僕は予測した。

 これは一斉攻撃の前触れであると。


 僕と魁斗は背を合わせて敵の攻撃を待った。


 その間にシアルは神気火炎雷の魔法を発動できるように、術式を構成している。


 そして僕は5時の方向から殺意を検出した。

 瞬時に時空倉庫から剣を取り出し、殺意に向けて振るった。


 だが、殺意はフェイントだった。


 殺意のあったところに、菊池悠斗はいなかった。

 意表を突かれた僕は、0時の方向から放たれた爆裂魔法陣の対応に遅れてしまった。

 それも、数万キロトンの爆裂魔法陣。


 魔力障壁によって防御することはできない。


 しかし、その爆裂魔法陣を魁斗が剣で粉砕する。

 剣には150万近くの魔力が込められており、魔法陣を魔力で相殺することができた。


『ごめん、ありがとう。』


『それぐらい大丈夫さ。』


 魁斗は言うが、これは僕の失敗だ。

 5時の方向は魁斗の持ち場である。

 なので、この殺意の対応は魁斗に任せればよかったのだ。


 しかし、僕は不覚にもその殺意に向かって剣を振るってしまった。

 それにより、本来僕が対応すべき0時方向の爆裂魔法陣に対する対応が遅れた。


 共闘の時、相手を信じるのは重要である。

 それができないと、共闘ではない。


 単独戦闘を×2しただけだ。


 まあ、過ぎたことを悔やんでもしょうがない。


 今の状況に目を向けよう。


『魁斗、残っている魔力は?』


『ざっと50万。』


『少ないね。魔力譲渡する?

 私には魔力神速回復のスキルがあるし、3400万程度の魔力が残っているから。』


『ああ、頼む。』


 僕が魔力を1500万譲渡した。

 だが、譲渡効率は8割ほど。


 よって魁斗の残存魔力は1250万、僕の残存魔力は1900万となった。

 それにしても元魔王和也との戦いに比べたら魔力消費量が格段に高い。


『できるだけ早く戦いを終わらせたいな。』


 だが、敵は現れない。


 待ち時間があるとその間に魔力を回復できたり、シアルが術式を構成したりできる。

 だが、集中力の消費というものが存在する。


 集中力を消費することで警戒が疎かになり、奇襲を受けて即死とか嫌だ。


 なので、菊池悠斗には早く現れてもらいたい。


 しかし、その願いは虚しく、爆裂魔法陣が撃ち込まれる。


 今日の天気は爆裂魔法陣一色だ。

 僕は魔法陣に魔力をぶつけて相殺する。


 時々、幻影魔法陣により菊池悠斗のホログラムが現れたりする。

 ホログラムって言っても、普通のホログラムではない。

 もし、街行く人がこれをホログラムだと言っても信じる人はいない、というレベルのホログラムだ。


 僕は殺意のフェイントのこともあり、鑑定してホログラムだと見破っているが。


 ---本気で不味い。このままじゃジリ貧だ。


 魔力は少しずつだが減ってきている。魔力神速回復を持っている僕でさえ。

 なんとか菊池悠斗を探し当てれないか、と思案する僕だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る