第13話 最強勇者と二年生
「れ、霊感?」
「うん、霊感。」
理穂は頷き、あの魔力溜まりを指差した。
「だって、この幽霊が見えるんでしょ?
さっきからずっとここ見てたじゃん。」
いや、確かにずっとそこを見てたけどさ。
僕はこんなところに魔力溜まりがあることにビックリして凝視しただけだよ。
「私は幽霊は見えなかったな。
だけど、ここに何かあるように感じたから・・・。」
「へぇ。
やっぱ霊感あるんだね。」
霊感じゃないんですけど。
魔力感?って言うのかな。
「それよりも、ここの幽霊ってどんな幽霊?」
僕は訊いた。
別に深い意味があるわけではなく、単に好奇心で訊いた。
「ここに取り憑いてる幽霊はね、一言で言えばイケメンかな。」
「い、イケメン!?」
イケメンの幽霊!?
「うん。爽やか系の絶世美男子。見てるだけでウットリしちゃうほど。」
ええ?幽霊に惚れれてるんですか?
「普通、幽霊が取り憑いてるとか言われたら怖いけど、イケメンの幽霊なら大歓迎だよねー。」
その久保野さんの言葉にみんなが頷く。
「ええ?他の人も幽霊とか信じてるの?」
「私は元々は信じてなかったね。
でも、理穂と一緒のクラスになってから幽霊を信じるようになった。
四月の頃は、『え?幽霊が見えるって?頭大丈夫?精神科行ったら?』とか思ってたの。
だけど、学校内のいろんな怪事件を解決したり、私の悩みを言い当てたり、除霊して筋肉痛を治してくれたりしたから、信じないわけにはいかなくなったんだ。」
「ふぅん。」
そんなことがあったのですか。
「で、この幽霊はどうしてここに取り憑いてるの?」
そう訊くと、楠木さんはちょっと時間をおいて、こう言った。
「ちょっと悲しい話だけど、いいかな?」
「全然大丈夫。」
悲しい話なんてあの世界で何回も聞いている。
「それじゃあ、話すね。
この話は私の従姉妹の楠木美枝と、その幼馴染の柳木本流星の話なんだ。
あ、流星は流れるに星って書いて、流星ね。」
そう言って、話し始めた。
柳木本流星は小学三年生までずっと心を閉ざしていた。
誰とも友達にならず、誰とも話さなかった。
だが、彼が小学四年生となったある日。
柳木本流星の学校に楠木美枝が転入して来た。
楠木美枝は隣の席の柳木本流星に何回も何百回も話しかけた。
すると、少しずつ柳木本流星は心を開いていった。
小学五年生になるときには、これまでと一転して社交的になった。
クラスの中心になった。
柳木本流星はいわゆる天才だった。
スポーツから勉強までなんでもできた。
中学受験も勧められたけど、楠木美枝の中学校に行くことに決めた。
だが、今から十年以上前のある日。
楠木美枝は交通事故で死んだ。
その後、柳木本流星の精神は崩壊したらしい。
彼は転校することになった。
そして、噂によると、柳木本流星は自殺したのだとか。
「で、彼が中学校で楠木美枝とよく話していたのが、ここなの。
それで、昼休みの時間になるとここに現れるんだ。」
「そうなんだ。」
ちょっと雰囲気が悪くなってしまった。
話を変えないと。
「そういえば、この幽霊がイケメンだって言ってたけど、どんな外見なの?」
「ええとね、銀髪で赤と青のオッドアイだね。
あと、肌もすごい白くて---確か、アルビノだって。
そんなのだったと思う。
身長は155センチ。」
僕は思った。・・・・・銀髪で赤と青のオッドアイ・・・・・だと?
『それってまさか・・・。』
シアルも同じことを考えているらしい。
多分、あの世界の住人なら銀髪で赤と青のオッドアイと聞いたら同じことを考えるだろう。
あの世界で最も有名な人物の外見なのだ。
『最強勇者、赤瀬川瑠衣・・・。』
の外見だ。
だが、まず名前が違う。
『ねえ、幽霊に鑑定魔法ってかけられるかな?』
『多分、できると思いますが。』
ともかく、僕は魔力溜まりに鑑定魔法をかけた。
その結果はさらに僕達を悩ませることになった。
《赤瀬川瑠衣←柳木本流星
LVエラー(少なくとも1000を超しています。)
称号 最強勇者
性別 女
その他鑑定不能》
名前←名前という表記は見たことがある。
確か五年以内に名前を変えた場合、昔の名前が右側、今の名前が左側に表示されるのだ。
つまり、柳木本流星は赤瀬川瑠衣という名前に改名して、最強勇者になったのか?
・・・それよりも疑問なのがある。
性別だ。
女だと?
確かに、伝承によると最強勇者である赤瀬川瑠衣は女だった。
だが、楠木さんの話によると柳木本流星は男である。
「柳木本流星って本当に男の子?」
「え?
柳木本流星は普通に男の子だけど。どうかした?」
うん。
この人は性転換したのか?
いや、そうだとしたら称号の欄にTS娘というのがあるはずだ。
TS娘という称号は男→女に性転換したら得られる称号である。
それが無いということは、男→女に性転換してないということになる。
つまり、赤瀬川瑠衣は柳木本流星だった頃から女だったことになる。
・・・うん、わからん。
わからないことはもう考えないようにしよう。
僕の主義だ。
それよりも今の二年生、僕の昔の同級生の状況を見に行こう。
「ねえ、そろそろ学校探検しに行かない?」
「あ、そうだね。ずっとここにいるから学校探検はやめになったのかと思っちゃってたよ。
それで、どこ行く?」
「二階から行きたい。」
二階は二年生のクラスが集まっている。
ちなみに僕達は今、一階にいる。
よって階段を上って行くことになる。
そして、階段にはられているポスターが全部変わっていた。
改めて1年間もこの学校にいなかったということに気づかされる。
「どうしたの?」
階段で止まっていると声をかけられた。
僕はちょっと誤魔化し笑いしながら二階に上っていった。
「ここが図書室、たくさんの本を借りれる場所ね。
そして、右にあるのが理科室。理科の授業の時は、半分ぐらいこの理科室でやるね。教室でやることもあるけど。」
その説明に、僕は相槌を打つ。
知ってるんだけど、演技ぐらいはしとかないとね。
そして一つ一つ部屋を見て回った。
「ねえ、あそこは?」
僕は二年生のクラスがあるところを指差して言った。
「ああ、あそこは二年生のクラスがあつまってるところだよ。
寄ってく?」
僕はうん、と言った。
「じゃあ、行こうか。」
久しぶりの同級生だ。
どんなことになってるのだろうか。
そして、二年生の昼休みは。
---至って普通だった。
あるところでは喧嘩まがいのことが起きてて、あるところでは友達と楽しそうにおしゃべりをしている。あるところではにはリア充がいる。
ま、そうだろう。
よく考えれば僕がいなくなってから一年も経つのだ。
そのことを気にしている人はほとんどいないだろう。
それと同時に、少し寂しいような感じがした。
だが、今の僕の居場所はこの学年にはない。
僕は今、中学一年生の東條紫苑だ。
新しい友達も沢山いる。
僕はそっとこの場を離れた。
ま、金髪翠眼の僕はすごい視線を集めたけどね。
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