第11話 男子VS女子

 授業は普通に進んだ。


 本当に、普通に進んだ。


 ただ、一つ問題があるとすれば。


 僕の方向をチラチラ向いてくるクラスメイトが何人もいることだろう。

 視線は途切れることなく降りかかる。登校時と同じように。


 魔王討伐の旅で精神力は格段にアップしたはずなのに、なんでこれほどにも精神力が削ぎ取られるのだろうか。

 僕は不思議でたまらない。


 というか、女子になってから視線に敏感になったと思う。

 あるいは、よく見られるようになっただけかもしれないが。


 あっ、あいつ僕の胸を見たな。

 別に僕の胸は大きいってわけじゃないのに。


 ちなみに胸の大きさを姉に悪魔魔法で測ってもらったところ、Aだった。


 そいうことを考えてたらチャイムが鳴った。




 予想していたことだが、授業が終わったら大量の人が集まってくる。

 クラスの半分弱ぐらいだろうか。


「どうも、右隣の二階堂翔です。」

 この少年は大人しそうだ。


「徳山南だよ~。」

 こちらは前の女子生徒。丸顔で可愛い。本人に言ったら『紫苑のほうがずっと可愛いよ!』って言いそうだけど。


「俺は佐伯龍樹だ!」

 ずいぶん元気な少年である。身長は低いほうだ。

「龍樹はいつも彼女募集中って言ってるよ〜。」

 こちらは菊池悠斗。龍樹のお目付役みたいなポジションにいるのだろうか。

「ちょ、悠斗、そういうこと言うな。」

 そして龍樹は悠斗をコツンと叩いた。


「翔の双子の姉の二階堂響だゼィ!

 双子って言っても性格は全然似てないんだけどァ!」

 本当に翔とは反対で活気のありそうな女子生徒だ。ショートカットで洒落た眼鏡をかけている。


「私の名前は泉茜。お友達になってね。」

 彼女はそう言って優しく微笑んだ。


「西条彩良よ!名前似てるね。よかったら私にも友達になってね。」

 こちらは女子のリーダー格みたいな少女である。彼女は後ろから抱きついている。


「どうも、紫苑ちゃん。伊藤由紀ですわ~。それにしても、ネットで見たよりかわええです~。」

 この少女が最初に『謎のネット美少女発見!』とか言ってたのか。


「私は岩渕美佳。ところで、シオたんって呼んでいい?」

 別にどんなあだ名で呼んだっていいよ。


「僕は長谷川一輝。学校内で知らないことがあったらなんでも尋ねてね。」

 こちらは癖のありそうな少年だ。


「いや、この学校のことについて聞くなら私達女子の方がいいんじゃない?」

 彩良が言った。

「ふ、そうとも限らないのでは?」


 すると女子VS男子みたいな構造で対立が起こった。

 この対立はなかなか収まりそうにない。


 精神魔法でも使おうかな、と思った瞬間だった。一人の発言で停戦した。


「次って大川先生の体育じゃない?」


 発言したのは、冷静そうな赤眼鏡をかけた女子生徒だ。

 名前は斎藤花蓮。


 この喧嘩を遠くから見ていた。


 その発言によって男子と女子の争いは停戦、いや強制的に休戦になった。


「あ、そうだ。大川先生苦手なんだよねー。」

 そう言って西条さんは抱きつくのをやめた。


「ねぇ、一緒に着替えに行かない?」

 と西条さんが提案した。

 その提案に僕は少しビクッとなった。


 確かに僕は女子トイレや女子風呂には慣れた。


 だが、同じ年頃の見ず知らずの女子と一緒に着替える勇気は、まだない。

 ま、いつかは一緒に着替える勇気を出せるようにならなきゃいけないね。


「ごめん、私はたくさんの人の中で着替えるのが苦手だから、女子トイレで着替えるね。

 あと、体育館とかの場所は知ってるから大丈夫だよ。」


 適当にそれらしい理由を言って誤魔化す。


「そうかー。残念。」

「ああ、着替えてる間に襲おうと思ってたのにィ!」

 ちょっと、響さん、冗談でもそういうの言わないでくださいよ。


 ま、そういうのは置いといて、僕は女子トイレに駆け込む。

 廊下は走っちゃいけないので、早歩きでだが。


『すごい大変でしたね。』

 個室に入った瞬間、シアルが声をかけた。

 これまで話しかけなかったのは気を遣っていたのだろう。


『本当に大変。』

 僕は頷く。


『ところで、紫苑様に敵意を持つ人が私の魔法で何人か検出されましたよ。』


『そんなことしていたのか・・・。

 それで、敵意を持ってるって、あの斎藤花蓮っていう人とか?』


『いいえ、その人は無関心とのことです。

 集まってきた人からは敵意は完全に検出されませんでした。

 逆に、集まってこなかった人の3割ぐらいの人から敵意が検出されましたね。

 しかも、敵意がある人はものすごい敵意を持っているようですよ・・・。』


 ま、最初っから全く敵意がないってことはないだろうとは思ってた。


 女性社会は怖いって聞くし。

 ま、このクラスの女子のリーダー格と思われる西条さんが好意的に接してくれたのは良かった。

 それだけでいじめとかに会う確率は少なくなるだろう。


 ま、それはいいとして僕は体操服に着替える。


 そして着替え終わって女子トイレの個室から出たら数人の女子がいた。

 ちなみに全員すでに着替えてる。


「やっぱり場所知ってるって言っても迷うことがあるかもしれないと心配しちゃったからきちゃったぜィ!」


 二階堂響さんです。

 ちなみに西条さんとか斎藤さんとかはいない。

 派閥が違うのかな。


「今日は体力テストで大変かもしれないけど、一緒に頑張ろうね。」


 そう言ったのは鈴木玲という普通な感じの女子だ。


 そして数人の女子に連れられ、体育館に来た。

 ギリギリだったが、間に合った。


 体力テストは本当に歓声の嵐だった。

 なんせ魔王討伐のために体を鍛えてきたのである。


 今の体力のベースはシアルだが、それでも中学校の体力テストなど魔王討伐に比べればお遊びのようなものだ。


 実際、僕は実力のうち4割も出していない。


「紫苑、本当にすごいね!」

「私の得意分野なのにィ。

 意外なところからライバル登場だッ!」


 ま、楽しそうな学校生活ができそうでよかった。

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