元勇者VS魔法陣使い
第10話 元勇者VS新生活
西暦2032年6月9日火曜日。
梅雨の時期だが、快晴である今日。
僕の目の前にはブレザーとスカートがある。
無論、これは僕の中学校の制服だ。
ここで僕はフゥと溜息をつく。
この中学校へは二度目の入学になる。
だが、前回の入学ではこの制服を着ることはなかった。
それもそのはず。
前回は男子として入学したのだから。
男子中学生、東條崇人として。
しかし、今回は全く別人の女子中学生として入学することになる。
女子中学生、東條紫苑として。
学年は一つ下。
誕生日も違う。
ちなみに誕生日は法律上、4月29日となっている。
記憶喪失の僕が発見された日だからだ。---弁護士曰く。
---実際は記憶喪失でも何でもないんだけどね。
まあ、この日は僕が地球に帰った日でもあるから別にいいだろう。
それにしても、運命とは不思議だ。
異世界に召喚され、死さえ覚悟した僕は今、一生着ることも想像さえしていなかった女子制服を着る。
あ、もう七時十分だ。
もう着替えないとやばい時刻だな。
そう思って着替え始める。
制服の着方等も姉から教え込まれていた。
よって、手惑うことはない。
提出書類等の荷物も完璧。準備万端。
さてと、行くか。
---新生活へと。
今日は僕の保護者である姉と一緒に登校することになった。
ちなみに魁斗は朝練か何かで先に学校へ行っている。
それと僕は麗奈のことを姉と呼んでいるが、血縁者ではなく養母である。法律上では。
『・・・やっぱり見られてますね、紫苑様。』
『本当。視線が痛いほど降りかかってる。』
姉さん、シアルさん。
僕の責任じゃないよ、痛いほど視線が降りかかってるのは。
だから僕の責任みたいに言わないで。
『紫苑のせいだとは言ってない。それはあなたの勝手な被害妄想。』
はい、ごめんなさい。
ともかく、僕に降りかかる視線は絶えることがない。
9割が好奇心、1割がその他の感情で出来ている視線は本当に痛い。
精神的にも辛い。
また超特殊スキル『開き直り』が発動しそうだ。
家を出た頃はまだ視線はほとんどなかった。
だが、道を歩いて行くうちに視線はどんどん多くなる。
近くに来た中学校の生徒の5割近くは僕の十メートルほど後ろを付いてきている。
よって十メートルほど後ろには謎の大集団が形成されてしまっている。
もちろん中学校はスマホやスマウォ、アイパッドその他禁止である。
よって、写真を撮る者はほとんどいない。
まあ、写真撮ってる人がいないわけじゃないんだけどね。
多分、学校に持って行っては先生に取り上げられているような人だろう。
そしてこの大名行列は校舎に入るまで続いた。
なぜそこで途切れたのかというと、僕は先に職員室に行くことになっているからだ。
といっても、職員室に入るまで視線が途切れることはなかった。
職員室では、新しい先生が出迎えてくれた。
「よろしく、私が東條さんの担任となる栗原浩一だ。1年6組担当だ。」
「初めまして、東條紫苑です。これから1年間よろしくお願いします。」
それと同時に僕はホッとした。
栗原先生はよく知っている先生だ。
生徒からの評判も良い親しみやすい先生だ。
基本的に生徒は先生を裏で悪口言っている者だが、この先生に関しては悪口を聞いたことがない。
どうでもいいのだが、少しだけイケメンだ。
30代後半で身長は160センチ弱。
ちなみに魁斗のクラスは1年4組である。
「どうも、紫苑の養母である東條麗奈です。」
姉が少し会釈する。
養母、という言葉に違和感を覚えるがしょうがない。
「ああ、こちらこそよろしく。
詳しい話はすでに聞いているから大丈夫だ。」
先生も少し会釈する。
その後、姉と先生が書類の確認をする。
それらの書類を確認している間に登校時刻を過ぎた。
一通り社交辞令を終えて、姉は帰っていった。
そして、僕は先生に連れられて1年6組まで行った。
僕は廊下辺りで止められる。
なぜなら、先生が生徒達に前もって僕の説明をするからだ。
もちろん、僕たちがついた嘘の。
先生が僕の出生や過去の記憶が完全にないことや、記憶喪失だが、学校生活などの日常生活の支障がないことも説明するらしい。
あと、記憶喪失であるということについて触れないように、と生徒に注意をするようだ。
まあ、僕には先生がどんな風に説明や注意をしているか、聞こえてないんだけどね。
「よし、東條、入っていいぞ。」
栗原先生が入るように促す。
僕は教室に入る。
すると、教室は物凄く盛り上がった。
「凄いかわええーー(女子)」
「おお、金髪翠眼美少女!(男子)」
「わ、謎のネット美少女発見!(女子)」
「これは夢か?誰か俺の頬をつねってくれ(男子)」
ともかく、すごいことになった。
1分ぐらい経っても静まらないので、先生が軽く咳払いをして教室は静まった。
「よし、それでは東條紫苑の自己紹介をしてもらうぞ。」
「はい、先生。1年6組に編入されることになりました、東條紫苑です。
『紫』に『苑』と書いて紫苑です。
1年間、よろしくお願いします。」
僕はお辞儀をする。
僕が自己紹介をしている間はシンと静まり返っていたが、自己紹介が終わった瞬間、またどっとうるさくなった。
「こらー。静かにしろー。」
先生が言ったが、静まる気配がない。
「まったく、しょうがないな。
---そうだ、東條はあっちの一番後ろの空いてる席に座ってくれ。」
先生が指を指す。
僕の席が一番後ろなのは先生の配慮だろう。
前だと絶対に視線が集まるからね。
それと僕の隣になった人はガッツポーズをしている。
さらに、クラスの人達はその人に向かって嫉妬羨望その他の視線を送っている。
「俺は相川颯だ!」
その少年が手を差し出して言った。
僕は礼儀的に握手をする。
するとその少年はまたガッツポーズをした。そしてクラスの他の人の嫉妬羨望その他の感情がより一層強くなる。
「それじゃあ、号令!」
と栗原先生が言った。
一時間目は栗原先生の授業だ。
栗原先生は国語担当の教師である。
「起立、礼、着席!」
日直が号令をかける。
「それじゃあ、今日は短歌の学習をしていくぞ。」
「おー栗っちー待ってました!」
そう言ったのはやんちゃそうな男子生徒である。
名前は佐竹というらしい。
「うん、短歌はコーちゃんの専門分野だもんね。」
別の女子生徒が言った。
名前は馬場というらしい。
というか、女子生徒にまでもちゃん付けで呼ばれるって、親しみやすいとはいえ限度があるだろ。
先生は別に咎める様子もない。
学級崩壊しているわけではないが。
多分。
ともあれ、僕の新中学校生活は始まった。
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