第9話 裁判

 地球に帰還してあれこれ5週間。


 ・・・やっと裁判が終わった。

 本当に長かった。

 いや、本当に。


 僕は1週間ぐらいで終わるだろうと高を括っていた。が、実際には5週間もかかった。


 警察に届け出を出したらすぐに保護され、質問攻めにあった。


 無論、僕は記憶がないことを警察に告げる。

「目が覚めたら東京湾にいた。」

 と言った。

 その後、和也さんに保護されたこと、そして買い物をして警察に届け出を出したことなどを言った。


 その間、僕はポーカーフェイスを貫き通した。


 ちなみに、表情には隠そうと思っても隠しきれない部位がある。本人がポーカーフェイスをしているつもりでも。

 例えば、眉間や口角。

 特に口角は無意識のうちに上がったり下がったりすることが多い。


 心理学者の中には口角と供述内容を見るだけでその人が嘘をついているかどうかわかる人がいる。

 ちなみにその人は異世界での僕のポーカーフェイスの師匠だ。そして王国最高の心理学者である。


 残念ながら異世界では嘘をつかなければいけない時も多い。

 だが、そういう時に偽装魔法だけでは相手を騙せないことがあるのだ。

 相手が心理学に長けたものであったとする。そしたら僕の表情から、僕の言っている内容が『嘘』であることがバレるかもしれない。

 そしたら、大変なことになる可能性がある。


 だから、ポーカーフェイスは完璧にしなくてはいけない。

 というわけで表情を作る事は異世界でみっちり教え込まれた。

 多分、警察を騙す事はできているだろう。


 幸い、脳波検査はなかった。

 脳波によって嘘かどうかを判断されたらポーカーフェイスなど無意味だ。


 閑話休題。


 日本警察は欧米に僕の戸籍の調査を依頼したらしい。

 中学生程度の、特異な服(シアル曰く聖女服)を着ていきなり東京湾に現れた少女である。


 日本警察はすぐに僕の戸籍が見つかるだろうと思っていた。

 だが、戸籍が見つかる事はなかった。

 他の国も調べたが、当然のこと見つからない。


 それもそうだ。

 シアルは異世界の住人なのだから。


 それと、検査も受けた。

 僕が本当に記憶喪失かどうかを検査されたのだ。


 検査では脳に外傷が見つからなかった。

 なので、やっぱり嘘がバレたと一瞬思った。

 だが、杞憂であった。


 医者からは『何らかの精神的ショックによる記憶喪失』と診断された。


 その後、二週間は警察に保護された。


 和也さんは『もう少し裁判のことを調べればよかったなぁ。』とか、『こんなことだったら片っ端から洗脳魔法をかけていった方が良かったかもな。』とか言ってた。

 僕もそう思う。


 逆に、姉はメリットを見出してくれた。

 曰く、『紫苑が女の子としての生活を慣れるためにいいんじゃない?』と。


 実際、僕が『私』という一人称で話すことに違和感はなくなった。

 ん?

『それならなんで僕っていう一人称を使ってるんだ?』だって?

 いいじゃないか。

 頭の中の一人称ぐらい僕の勝手にさせてくれ。


 それにもう一つ。

 女子トイレに慣れた。


 最初の頃は男子トイレに間違って行ったことがあった。

 無意識のうちにね。


 ま、これが学校じゃなくてよかったよ。

 学校だったら大変なことになっていた。


 だが、二週間経った頃には、男子トイレに入ろうとすることだけでも躊躇いを感じるほどだ。

 慣れとは恐ろしい。


 それはともかく。

 保護されてから二週間ほどで、解放された。


 僕の願いもあって、僕の家で過ごすことが許された。


 そして、裁判所に僕の戸籍の獲得と和也さんを後見人にすることを訴えた。


 だが、訴えたら訴えたで裁判が始まるのが遅い。

 3週間もかかった。


 まあ、それまでの間に勉強とか忘れてることを覚え直している。


 一年以上も異世界にいたのだ。

 忘れていることは意外に多かった。


 それからあれこれ3週間。


 結局僕は日本国籍と戸籍を獲得し、和也さんと姉を後見人にすることができた。


 そして、僕の2度目の中学校への入学が決まった。

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