第7話 姉との風呂と甥

「これが崇人兄さんなのか?

 すごい美少女になってるじゃん!」


 こちらが僕の甥である東條魁斗。

 中学一年生で市立第三中学校に通っている。

 月曜日の今日は部活がないのか、早く帰ってきた。

 そして・・・和也さんに似てイケメンだ。羨ましい。


 すでに僕は男でもないんだけどね。


「崇人、久しぶりー。

 事情は私も魁斗も全部聞いてるよ。それにしても、元勇者だったなんて思いもしなかった。」


 で、こちらがその魁斗の母親であり僕の姉でもある東條麗奈。


『こんにちは、シアルです。これから長い間よろしくお願いします。』


「お、よろしく。」


「うん、シアルちゃんよろしくね。」


 まあ、シアルや姉、魁斗の間に問題が起きなくてよかった。と、僕はほっと胸をなでおろす。


「それにしても、勇者に悪魔神に魔王に聖女か・・・。

 この家が普通じゃないのは知ってたけど、ますます普通じゃなくなるぜ。」


「まったく、その通りだ。」


 僕が願ったのは平穏な地球での生活だったのに。

 これじゃあ異世界並みに波乱万丈な生活になりそうだ。


「ね、それでさ、家の中だったらいいけど、家の外だと崇人のことを崇人って呼んだら変に思われるでしょ?

 崇人ってどう考えても男の名前だから。

 それで、新しい名前考えてきたんだけど、どうかな?」


 麗奈が言った。


「へえ、新しい名前って?」


「東條紫苑。シオンちゃんね。

 もし、魁斗が女の子だったらこの名前をつけるつもりだったの。」


「ま、別にいいんじゃないか?」


 ということで僕の新しい名前は簡単に決まった。


「改めてよろしくね、シアルに紫苑。」


『こちらこそ。』


 シアルがお辞儀したような気がする。


「ところでさ、紫苑、風呂入らない?」


「ええ、もう入るののか?面倒なんだけど。」


 そう言うと姉からダメ出しを喰らう。


「まず、口調を女の子口調に直さないとね。

 まずは少しずつでいいから、ね。」


 そこを指摘するのか。

 まあ、確かに外でボロが出ないように今から練習する必要はあるかも。


「それと、風呂にはもう半年以上入ってないでしょ?

 魔法で少しは綺麗になるとはいえ、お風呂で綺麗さっぱりになる必要はある。

 私が手取り足取り教えてあげるから。」


 うん。

 ----プライドというものを捨てる必要があるかもしれない。


「それにしても、姉と一緒に入るってのは・・・。」


「そうは言っても年齢差的には親子ぐらい離れてるし、女の子として入浴するのは初めてでしょ?」


 全くもってその通りだ。

 ・・・この羞恥心との戦い、勝てるであろうか。


 多分、姉にいくら拒否しても風呂に入らせれる。

 僕は、こういう時はいつまでも食らいつかれるということをよく知っている。


「わかった。」


 といつの間にか口に出してしまっていた。


『久しぶりの風呂・・・久しぶり風呂・・・。』


 シアルも余程入りたい様子。


「それじゃあ紫苑、ちょっと身長計らせて。」


 と麗奈は言い、黒魔法陣を僕の下に展開して、僕の身長その他の身体情報を暴かれた。

 それと同時に、悪魔の魔法の使い方がわかった。こうやって黒魔法陣を対象の周りに展開させるらしい。


「着替え用意しとくから、紫苑は先に入っててねー。」


 と姉が言い、三階の麗奈の部屋に消えていった。

 多分、姉が小さい頃に使った服を持ってくるのだろう。

 ともかく、それよりも。


 ----僕と羞恥心との戦いの第二ラウンドが始まった。


 姉と一緒に風呂に入ったことはない。少なくとも、記憶上は。

 理由は年が離れすぎているからである。

 ちなみに和也さんとも入ったことはないが、魁斗とは入ったことがある。


 なんせ魁斗は僕の一歳年下だ。

 それに、僕のことを崇人兄さんって言っていたし。


 話を戻す。


 僕と一緒に風呂に入った女性は母と妹の真弓ぐらいである。


 そして、僕は今、----女子だ。それに、僕は女子と一緒に風呂に入る勇気はない。その相手が、シアルの姿をしている自分だとしても。


『頑張ってください、タカト----じゃなくて、シオン様!』


 アルテイシアル。

 これは開きなったとしても、かなり難しいよ。


 シアルだっていきなり男子になって風呂行けって言われたら躊躇うだろう。


 そんなことを考えてると、後ろのドアが開いた。

 もちろん姉だ。これで和也さんや魁斗だったら心底軽蔑するだろう。


 それはともかく。


 姉の手には僕のものと思われる着替えがあった。もちろん女子の私服の。


 当然ながら、着替えの中に下着もあった。

 姉が使ったことのないやつだと思いたい。

 あまり深くは考えないようにしよう。


 それともう一つ言いたいことが。


『可愛いです。』


 シアルの言う通り、はっきり言って可愛い。オシャレな服だ。

 こ、これを----女子歴数時間の僕に着ろと?


「ぼ・・私にこんな服着れないよ!」


 僕って間違って言いそうになった。

 多分、私って言わないと姉にまた怒られるしね。


「これはね、私には可愛すぎて似合わなかった服なの。だけど、捨てるのはもったいなくて取っておいたのね。

 でも、紫苑なら絶対似合うよ!」


 いやいや、似合うとかそう言う問題じゃない。

 僕のプライドが許さないのだ。

 僕のプライドは確かに削られてきたが、まだ完全になくなったわけではない。


「何ぼんやりしてるの?早く脱ぐ!」


 そう思ってたら、いきなり姉が後ろからアタックしてきた。

 即ち、服を脱がしてきた。


「ぎゃう!」


 僕は女の子らしからぬ叫び声を出した。それも可愛い声で。


 女の子らしい叫び声ができてもしょうがないけど。


 そして恥ずかしくてすかさず体を隠してしまう。


 その反応に姉はため息をついた。


「だめよ、そんなに恥ずかしがっちゃ。

 そんなことじゃ修学旅行とかで友達と一緒に風呂は入れないよ?

 それは随分先のことだけど、今のうちから女子に慣れたほうがいいよ?」


 正論を並べられて反駁のしようがない。


『そうですよ、昔は私の体だったかもしれませんが、今は紫苑様の体なんですから!』


 シアルにまで正論を言われた。


 チラッと姉の方を見ると既に全部脱いでいた。

 僕は慌てて目を逸らした。


「なにやってるの?」


「・・・姉さんは僕に見られても平気なの?」


「・・・呆れたねぇ。

 もう紫苑は女の子でしょ。

 恥ずかしいわけないじゃん?

 ほらほら、早く脱ぐよ。」


 そう言われて下着も脱がされた。


「あと、脱いだ服はちゃんとたたんで脱衣かごに入れといてね。

 紫苑は半年も風呂に入ってないから忘れてるかもしれないから言っとくよ。

 まあ、この服は聖女服のようだから今日はいいけど。」


 そして僕は姉に促されるまま風呂に入った。


 風呂は簡単に言えば天国だった。


『ふぇぇぇぇぇーー。気持ちいいですーー。』


 シアルも一緒に脱力している。

 こんなに、湯船が気持ちいところだったとは。


 異世界に行ってなかったら知らなかっただろう。


 これなら何分でも居られる。


 だが、姉がそれを許さない。


「こらー。

 いつまで湯船にいるの?

 ちゃんと体も洗いなさーい。」


「ふぇーい。」


 恥ずかしさなんてどうでもいい。

 だって、ここは天国だから。


「いい、これがシャンプー、これがコンディショナー、これがトリートメント。

 ちゃんと使い方を覚えとこうね。

 女の子の会話で、使ってるシャンプーはどこの製品だとかいう話になることもあるんだから。」


「ふーん。」


 そして、完全に脱力しながら女子のイロハを教えてもらった。


 ドライヤーかけてる間もずっと気持ちよかった。

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