第4話 和解

 目の前には感電により失神している和也さんがいる。


 魔王の能力を持っている元魔王とはいえ、体は完全に人間のようだ。


『タカト様、トドメは刺さないのですか?』


『シアル、地球では相手が誰であろうと殺したら罪に問われるんだ。

 第一、これから家に帰ってくるであろう姉になんと言い訳をすればいいんだ。』


『なるほど・・・確かにそうですね。

 なら、封印魔法で封印しますか?』


『ああ、そうしよう。』


 それも、普通の封印魔法ではない。

 最上級神を封印するつもりで封印しなければいけない。


 念入りに念入りに何重にも封印を施す。


 そして、和也さんに覚醒魔法をかけて目を覚まさせる。



 覚醒魔法はその名の通り寝ている人物を起こす魔法で、虚空生命初級魔法に分類される。

 朝に弱かった僕はシアルに覚醒魔法で起こされた経験が何度もある。


 今ではいい思い出だ。



「ん・・・。

 あ、そうだ!テレビは無事か!?」


 和也さんは起きた瞬間そんなことを叫んだ。

 いや、本当に元魔王なのか?


『テレビ?テレビとはなんですか?』


『後で説明するから。ちょっと今は待ってて。』


 そういえば和也さんの言葉が気になる。テレビ?


 リビングにテレビなんてないじゃないか。そう思ったときのこと。


「テレビつけて。」


 和也さんが封印状態のまま、言った。

 するとリビングの中央部分の立体的なNCH(日本中央放送局)のニュースが映し出される。


『あれはなんですか!?

 ま、まさか嵌められた!?』


『いや、あれはただのテレビだよ。罠でもなんでもないよ。

 ・・・それにしても僕のいない間に新しいものができたんだなぁ。』


 3次元テレビは僕が異世界召喚される前までは開発中の代物だったのに。



「よし、テレビは壊れてないようだ。

 それに家具も一つの損傷してないな。」


 和也さんが部屋を見回して言った。


「そこって気にするところ?」


「気にするよ。

 家具の一つでも壊したら俺の嫁に滅茶苦茶怒られるよ。」


 緊急事態。

 元魔王は人間の嫁を怖がっているようです。


「本当に元魔王なの?」


「ああ。

 如何にもお前たちのパーティに倒された魔王だ。

 そして地球でもお前に倒された。」


 和也さんはシアルの姿をちゃんと覚えてるようです。


「あの世界で『私を倒したことを後悔するだろう!』とか言ってた、あの魔王?」


「え?そんなこと言ってたっけ?」


 和也さんが素っ頓狂な声を上げた。


「いや、死ぬ間際にそんな世迷言みたいなこと言ってたじゃん。」


「すまん、覚えてない。魔王の頃のことで忘れてることも多いんだ。」


 和也さんは笑いながら言った。


「ところで・・・君は俺に何をしようとしてるんだい?

 君達に倒された魔王が転生した後の姿である俺を倒しにきたんだと思ってたんだが、まだ殺してないところをみるとそうでもなさそうだし。」


「うーんと、ちょっとステータス隠蔽魔法とか解除するから、僕のステータス鑑定してみて。」


「俺・・・封印魔法かかってるから魔法使えないんだけど。」


「あ、そうだったね。封印魔法も解除しとくよ。」


『え?解除しちゃって大丈夫なんですか?』


『この際しょうがないさ。』


 完全に大丈夫、とは言い切れないが相手は和也さんだ。

 話し合ったらわかってくれるだろう。


「ええと、封印魔法解除したから、僕にステータス鑑定魔法をかけてみて。」


「あ、ああ。

 ・・・・・・ん?・・・崇人・・・だと!?」


「そうだよ、僕は紛れもなく東條崇人本人さ!」


「崇人って一年前に飛行機墜落事故で死んだ、俺の嫁の弟の?」


「その通りだ。」


 と堂々と答える。


「・・・質問はいろいろとあるんだが、なんでそんな姿になった?」


『その質問には私、アルテイシアルから答えさせてもらいます。』


「うわ!びっくりした!」


『びっくりしましたか?』


「普通、どこからともなく念話で話しかけられたらびっくりするよ。

 ・・・で、なんで崇人はそんな姿になったんだ?」


『その理由は勇者召喚の儀の日まで遡ります・・・・。』


 シアルの説明は5分ぐらいかかった。

 相手が元ファンタジーの世界の住人だったので、意外にも説明の時間がかからなかった。


「・・・で、今の崇人の体の元の持ち主が、俺を倒した勇者パーティの一人である聖女アルテイシアル、ってわけか。」


『要約するとそうなります。』


「そうだったのか・・・。いきなり攻撃したりしてすまなかった。」


『わかればいいのですよ、わかれば。』


「そう言ってもらえてありがたい。和解の印だ、握手しよう。」


 そう言って和也さんは手を差し出した。


 僕もシアルの代わりに握手に応じた。


「あ、そうだ!」


「ん?どうした?」


「姉にはどう説明すればいいだろう・・・。」

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