第二話 人殺し

ヤンキーに絡まれる


 穏やかな昼下がり、校舎裏の麗らかな日向の中で。

 俺は何故かヤンキー二人に絡まれていた。

 金髪で体格がよくて目が鋭い。

 その上、両脇から肩に腕を回されているので固定されて逃げられそうにない。

 幸いなのは喧嘩腰というわけではなく、何かしら用があって呼び出したという様子だったことだろうか。

 睨まれてはいるが、すぐに手を出してくるというかんじではない。

 まぁ、下手なこと言えば殴られそうな気はするが。

 緊張でさっき食べたばかりの昼飯が逆流しそうだ。

 

 

 昼休みになった途端、校舎裏に呼び出された。

 呼び出しに来たのが隣のクラスの女子だったので、うかつにもホイホイと何の警戒もなく来てしまった。

 校舎裏といえば告白か決闘と相場は決まっているものだ。

 首を傾げつつ、ちょっと色々楽しいことを期待してしまったのは男子高校生として当然といっていいのではなかろうか。

 それがなぜ、こんなことに。

 

 

「おう、なにビクビクしてんだよ」「なに、取って食うわけじゃないんだから、そんなに怖がるなよ」

「この状況でそんなこと言われましても」

「それによぉ、タメなんだからそんな畏まらなくてもいいんだぜ?」

「いえ、お構いなく……」

「まぁ、いいけどな。でだ、お前攻略部にはもう入っちまったのか?」


 正直に言おうか少し迷った。

 入部していたら何かあるのだろうか。

 まぁ、ちょっとうちのクラスで話を聞けば分かることだ。

 隠さなくてもいいか。

 下手に嘘を付いて殴られるのは勘弁願いたい。


「まだ体験入部しただけで正式にはまだですよ」

「そうか、それなら都合がいい」「奴らがいきなり部外者を入れるとは思ってなかったけどな」

 

 二人は機嫌良さそうに口の端を釣り上げて笑った。

 どうやらこの二人、ダンジョン関係者らしい。

 

「それで、一体何の御用でしょう……」

「そう急ぐなよ」「そうそう、別によぅ、喧嘩しにきたんじゃねーんだからよ」


 戯れに脇腹を突かれた。

 くすぐったいし痛いのでやめて欲しい。

 

「なぁ、転入生よ、せっかくの同じダンジョン攻略者なんだ。ちょっとは仲良くしてもいいんじゃねえか?」「無理に付き合えとは言わねえけどな」


 やっぱりというか、生徒なんだしそうだろうとは思っていたが攻略者か。

 しかしなんだろうか。

 二人には緊張感と警戒心みたいなものを感じる。

 初めて会ったのだし当然ではあるが、俺のことを信用してないし、信用されているとも思っていない、ような。

 この距離感の同級生にしては珍しい空気というか、やはり攻略者というのは『ちょっと変わっている』人間なんだな、と思ってしまう。

 普通のガラの悪い人間は警戒はするけど緊張まではしないんだよなぁ。

 俺の顔に威圧感とかそういうものが一切合切抜け落ちているせいだろうが。

 

「でだ、転入生よ、お前今日は暇か?」

「いや……その」

「暇だよな?」

「約束が……」

「今日は俺達とダンジョンに潜ろうぜ」「どうせまだ先輩におんぶにだっこで稼げないしつまんねぇだろ?」


 今日はちーちゃん先輩と引き続きチュートリアルしようかという話はしていたのだが、押し切られてしまいそうだ。

 何の目的で俺を連れ出そうとしているのかわからないが、ヤンキーのやることだ。

 きっとろくな事じゃないに決まっている。

 ここは断固として断らなければ。

 俺は拳を固く握り、意志を込めるように息を大きく吸った。

 

「……なぁ、人殺しの見分け方、知りたくないか?」

 

 息が止まる。

 ゆっくりと二人へ交互に視線をやると、ヤンキー共は満足そうに頷きやがった。

 あっさりと俺を離して立ち上がり、見下しながら一方的に告げてくる。


「別に、本当に嫌なら来なくていい。興味があるならダンジョン前に集合だ。いいな?」「わかってると思うけど、なるべく誰にも知られるなよ」

「……みんなが潜った後の時間でいいですかね」

「そのつもりだ」「俺達は『部外者』だしな」


 『部外者』か。

 学校は部に所属していなくても換金をしてくれるらしい。

 所属するのも強制じゃないって言ってたしな。

 前回会った黒騎士にしてもそうだ。

 ちーちゃん先輩は生徒なのは確実だが正体はわからないと言っていた。

 あれは言外に、攻略者は部のメンバーだけではないと示していたのだ。

 

「あぁ、そうだ。名前は?」

「チュンセと」「ポーセ」

「「二人揃って双子星」」


 おそらくは通り名、を仲良く揃って名乗り二人は去った。

 こんな言動で意外と文学好きかよー。

 信じらんね。

 

 ……それにしてもだ。

 すごいおっぱいだった。

 両脇から挟まれるとダブルでやわらかくてすごい。

 どうにかなるかと思った。

 しかしあの慣れない金髪碧眼と真っ白な肌で二人一緒に近づかれると、どうにも威圧感があるんだよなぁ。

 はぁ、こわいこわい。

 あのでかいまんじゅうはこわすぎる。

 あぁ、あとすっごいいいにおいがしました。

 うむ。

 

 

 その後、軽くクラスの連中に二人のことを聞いてみた。

 ただしジャンボに知られないよう、こっそりと。

 部外者とどういう関係なのかまだわからないし、接触したことをまだ知られたくはないと思ったのは警戒しすぎだろうか?

 ともかく。

 普通、別のクラスの人間のことなんてそうそう情報が出るわけもないのだが、あれだけ目立つ容姿なら話は別だ。

 黙ってればパツキンの超絶美少女だし。

 グラマーだし。

 しかも顔がそっくりだし。

 目立たないわけがない。

 そりゃ有名に決まっている。

 というわけで色々噂は聞いたがあまり有用なものはなかった。

 曰く、一人が色んな所に出現するように見えるが実は双子だとか、男子生徒みんなのオナペットだとか、休み時間はいつも二人一緒だとか。

 そんなこと知っとるわという感じだ。

 彼女達のクラスで直接聞き込みをすればもうちょっと有用な情報も出るのだろうが、リスクがあるのでやめておいた。

 嗅ぎ回って印象が悪くなっても困る。

 ちなみに一番役に立った情報は胸がちょっとでかいほうが姉で、舌舐めずりをして唇を湿らせる癖がある方が妹ということだった。

 よく見ないと見分けつかないのはわかるが、それにしてもよく見すぎだと思う。

 そんなところだ。

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