レイン・ストップ・ビフォア・サマー
夏が来る前の春の後の季節、雨が続いた3日目の夜、世界が止まった。
窓の外を見た。
雨粒が空間に固定されていた。
外に出ると、街灯に照らされた雨粒の1つ1つが光を跳ね返す。眩しいくらいの美しい光景が目の前に広がっていた。
それは均等に満遍なく散らされているようでありながら、すこし集まりすぎたような場所も見つけられた。
賑やかな空間と、寂しそうな空間と。
集まってお互いに光を与え合うものたちと、一粒だけで光を放つものと。
靴を履き駆け出すと、私の体は水滴を集めながら一面に光り輝く夜を切り裂いた。結露した窓を指でなぞるように。夏の夜に1人踊る。
私の体は夏の夜に濡れた。
振り返ると、そこには私が歩いた分だけの闇ができていた。
そこから光を奪って、私の体は輝いていた。
私が光を奪ったんだ。
光を集めてしまったんだ。
どうしよう、私なんか輝いたところで。
美しくはない。
誰にも見てもらえやしないのに。
だけどもう水滴は戻すことはできない。
私は夏の夜に失敗をした。
音のない夜に、こんな他愛もないことに、私は涙を流した。
それは静けさへの怖れと、美しかった空間を私が削り取ってしまった罪の意識と、それでも夏がどうしようもなく楽しみである自分と、そんな感情たちの向かいどころだった。
その涙は空間ににポツリと浮かびあがり、光を増やした。
「そうか、泣けばあの光を取り戻せるのか。」
そんな考えを巡らせた刹那、世界は轟音とともに再び動き出した。
意味のない涙が地に落ちて破裂した。
あんまりだ。
まだ夏になる前の夜に私は濡れ、失敗を犯し、そして間違いを学んだ。それはいずれ、後悔に繋がることになるだろう。
それでも光に包まれながら1人踊った夏の夜は永遠に残り続ける。
綺麗なものと汚いものを抱きかかえたまま彼女の夏は始まりを告げる。
ハスキートラベル 小島イチカ @kojima_ichika_
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