パークの食糧危機なのだー
天ノ川源十郎
第1話
「よく来ました、かばん待っていましたです」
「お帰りなさい、かばん待っていましたよ」
モフモフと暖かそうな毛皮に覆われたアフリカオオコノハズクのハカセとワシミミズクのジョシュは友人との久しぶりの再会に笑顔をこぼします。
「わたしもいるよっ!」
サーバルキャットのサーバルちゃんがかばんちゃんの後ろから元気な声で言いました。
「サーバルも元気そうで何よりですよ」
ハカセは首を傾けつつ微笑んでサーバルに言いました。
「カワラバトのフレンズさんにハカセの伝言を貰ってからずいぶんとかかってしまいました」
かばんちゃんが言い訳するみたいにそう言うと
「ジャパリバスがあればべんりなのにねー」とサーバルちゃんが言いました。
以前に乗っていたジャパリバスは船になってしまっているので陸には上がれません。カニのフレンズさんたちみたいに気分次第でちょっと陸に上がろう、というわけにはいかないのです。
「ところでパークの危機に協力して欲しい、と聞きましたが本当ですか?」
かばんちゃんがハカセに尋ねるとサーバルちゃんも身を乗り出して言いました。
「またセルリアンなの? わたしたちもがんばってきょうりょくするよ!」
「いえセルリアンではないのです」とハカセは言いました。
「ですが、パークの危機には変わりないのです」とジョシュさんは続けました。
「我々は何か手を打つ必要があるのです。この森の長なので」
「危機に対処するのです。この森の長なので」
「一体、何があったのですか?」
「じつは……」
「しんりんちほーのジャパリまんを作る装置が壊れてしまったのです」
「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
かばんちゃんは驚いて声を上げてしまいました。食いしん坊のサーバルちゃんに至ってはショックのあまり顔が真っ青になってしまいました。ライオンちゃんに処刑されるかと思った時だってここまで真っ青ではなかったはずです。
「ラッキービーストが通信で他のちほーと連絡をとって修理用の部品を取り寄せているのです」とハカセは説明します。
「ですが、修理までに最低でも一か月。下手すれば三か月は直らないのです」
「その間は他のちほーから分けてもらいつつ、なんとかやりくりしなくてはいけないのです。ですがそれでは十分ではないのです」
「ジャパリまんの材料をそのまま食べることもできなくはないのです」
「ですが、おいしくないのです。おいしいものを食べてこその人生なのです」
「分かりました。つまりその間、料理を作って欲しいというわけですね」
「さすがはかばん。話が早いのです」
「協力してくれますか?」
「もちろんです」とかばんちゃん。
「わたしも手伝うよ!」とサーバルちゃんは元気に言いました。
「かばん、一体何を作るのですか?」
ハカセが尋ねると図書館の本を眺めながらかばんちゃんは答えます。
「畑ではじゃがいもが沢山とれるようなので、じゃがいもをメインにした野菜スープを作ってみようかと」
「ねぇ、かばんちゃん。きょうはわたしが火をつけるよ」
サーバルちゃんの言葉にハカセは驚いた顔をしました。
「できるのですか?」
「できるよ、きっと。それにかばんちゃんにいいところをみせないとね」
サーバルちゃんは張り切ってそう言いました。
ところが……
「ひゃっ、あれ? あれ?」
かばんちゃんから受け取ったマッチを擦ると火をついたそばからすぐにマッチ棒を投げてしまいます。
「何してるのです」
それを見ていたハカセは呆れた口調で言いました。
「火がもったいないのですよ」
地面に落ちて火が消えてしまったマッチ棒に目をやってジョシュさんは言いました。
「あれ、おかしいな。あのときはできたのにな…… ねぇ、ハカセもみていたでしょう? ちずに火をつけてピューって」
「確かに見ていたのです。あの時のサーバルはまるでかばんみたいだったのです。ですが今はダメダメですね」
「ええ、ダメダメなのです。いつものドジなサーバルなのです」
「ひどいよー」とサーバルちゃんはしょんぼりして呟きました。
「サーバルちゃん。あのときって?」
「ん、ああ、秘密だよっ!」
サーバルちゃんの言葉を不思議そうに受け止めたかばんちゃんは少し考えた後、何か思い当たったのか優しげな表情をして言いました。
「サーバルちゃん。一緒にならどうかな?」
かばんちゃんはサーバルちゃんの後ろに立つとサーバルちゃんの両手を握りました。サーバルちゃんの左手にはマッチ箱、そして右手にはマッチ棒。彼女の手首を優しく包むように握ったかばんちゃんはサーバルちゃんの耳元で囁きます。
「大丈夫だよ。サーバルちゃんならできるから」
「う、うん」
「わん、つー、すりー、で火をつけるからね」
「う、うん」
サーバルちゃんは緊張した面持ちで頷きます。
わん、つー、すりー
しゅぽっ。という音とともに火が灯ります。一瞬だけサーバルちゃんはビクッとしましたが、火を投げてはいません。サーバルちゃんは驚いたような嬉しそうな顔つきで火を眺めます。
「サーバルちゃん。これを木くずに移せるかな?」
「うん。まかせて!」
サーバルちゃんは元気にそう言うと木くずへと上手く火を移します。かばんちゃんの手がもう離れていることに、サーバルちゃんは気が付いていないようです。
「で、できたー! や、やったー。やったよ。ねぇ、みてた?」
「すごいよ、サーバルちゃん」
「ほう、サーバルもなかなかやるのですね」とハカセ。
「ええ、褒めてあげるです」とジョシュさん。
二人ともサーバルを褒めつつも未だに火が苦手な二人はサーバルに先を越された気がして少し悔しそうでした。
「ありがとう、かばん。おいしかったですよ」
「装置が直るまでは、しばらくお願いするです。ヒグマにも料理を手伝うように頼んでいるので彼女が来れば少しは楽になるのです」
「ええ、がんばります」とかばんちゃんは頷きました。
それからしばらくの間、しんりんちほーではハカセが鳥のフレンズさんたちに頼んでかばんちゃんたちが作った料理を他のフレンズたちに運んでもらうという日々が続きました。
ラッキービーストたちの努力の甲斐もありほどなく施設も無事に直り、しんりんちほーには再びジャパリまんが供給されるようになりました。そして役目を終えたかばんちゃんたちは再び自分たちの旅へと戻っていきました。
ところがそれからしばらくして……
「まいったのです。フレンズたちからたまには料理を食べたいと要望がすごいのです」
ハカセは全然まいったようにはみえない表情でそう言いました。
「ええ、かばんたちの料理がおいしすぎたのがいけないのです。彼女たちには責任をとってもらうのです」
かばんに料理を作らせるいい口実ができたとばかりにジョシュさんも言いました。
「ジョシュ。カワラバトのフレンズに伝言を頼むのです。旅が一段落したらまた料理を作りにもどってくるよう伝えるのですよ」
ハカセとジョシュはかばんたちが旅立っていった方角を見つめながら、まだ見ぬ素敵な料理に想いを馳せたのでした。
パークの食糧危機なのだー 天ノ川源十郎 @hiro2531
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