6.ドミノ倒し
その日、ある青年の葬儀が行われた。
まだ19歳という若さでこの世を去った彼の気持ちを汲むことを償いとするべく、彼の知り合いが集まった。十数人ほど、決して多くはない。
誰しもが、「どうしようもなかったのか」という真実だけに目を向けて自分自身を恨んだ。
体格のいい青年、綺麗な髪飾りをつけた女性、肌の白い女の子。
順番に焼香を進めていく。
青年は語りかける。
物がいつか壊れるように、人間もいつかは動くのをやめる。
それが、お前はたまたま早かっただけなのだろう。そう思えたらどれだけ楽だろうか。
友情というのは難しい言葉だと思う。自分1人じゃ確信はできないし、証もない。
無くしたと思っていた兵隊人形はお前が隠し持っていたらしいな。
そのおかげで、後ろめたさもなくここに来ることができた、お前のことを愛らしく思えた。
感謝とともに、最後に、この敬礼を。
髪飾りの少女は語りかける。
ごめんね、夕。ごめん。あなたは私の翼になろうとしてくれた。
あのまま二人で古いタバコ屋さんで、タバコを使ってドミノ倒しをして遊んでいればよかったね。
お姉ちゃん、また空回りしちゃったね、ほんとどうしようもないお姉ちゃんだね。
あなたの描いた空が、街が、鳥が、夕日が、お母さんが本当に好きだった。
お姉ちゃんついに1人になっちゃったから、もう何も怖くないよ。おやすみ、夕。
少女は語りかけることはない。
お辞儀をしたり、手を合わせたり、その仕草ひとつひとつが、何処となしに壊れやすいものを見ているようで、誰もが目線をその少女へ流していた。
この場でその少女の得体を知るものはいなかった。そして誰も知らないことを誰も知らなかった。
少年の残していた知人のメモに、少女の名前と連絡先があっただけ。
大切に仕舞われていたメモを、姉が見つけただけである。
その目は虚ろで、けれど白目と黒目がはっきりと分かった。涙袋が心なしか赤く、会場で唯一モノクロから外れでいた。
少女のお焼香の番が来た。ふらりと動き出し、前へ出る。
そして突然の大きな泣き声が、その空間一面にザァザァと降り出した。
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