2.貝殻拾い
素足で砂浜に降りると氷のように冷たい。
街は紅葉色に染まる季節、未明。
砂の粒が足にひっついてくる。
ひとつひとつに構ってあげられるほど余裕なんてないのにな。
海には来たのは3年振りだった。昔はよく2人で遊んだものだ。
海へ入っていつまでも水遊びをしていた。寒がりの私は9月になるともう海へは入れない、それでも砂のお城を作った、キレイな貝殻を集めた、波の音を聴きながら星空を眺めた。
今1人波打ち際に立つ。波が私の足に噛み付いた瞬間、その冷たさは足首から下を削いでしまうようだった、
水平線は光を含んでコバルトブルーに輝いているのに、私の足元の水は光を失い真っ黒く漂っている。
砂浜、半分だけ見えている貝殻さえもその色を濁した。
昔は美しさしか知らなかったこの海に、大人の私は厳しさを突きつけられていた。
半分だけ見えている貝殻を、震える指で拾い上げ、かわいそうにと両手で温めた。
いや、変わってしまったのはおそらく私のほうなのだろう。
人の罪を憎み、汚れを探した。
そして生まれた悪い私の姿を海は写してくれていた。
私はスキニーを脱ぎ捨てて海へ進む。
太ももが波の餌となって黒く濁った。白い肌に鳥肌が広がっていく。
償いという言葉はあまり好きではないのだが、心まで冷えていく過程が私にとって一時の安息になった。
涙が溢れた。
その涙はそのまま海に溶けていく。
そしてただ濁りを増しただけである。お互いに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます