キリン探偵のアミメ捜査

三角ともえ

『好敵手はどこだ』

「頼もう! 困りごとを解決してくれるフレンズがいるのは、ここか!」

 ある朝、『ロッジアリツカ』のドアを開け放って言ったのは、一人のフレンズ……ヘラジカだった。

「それなら彼女だよ」

 タイリクオオカミに指を差されて、アミメキリンが胸を張る。

「ええ、それはこの、名探偵アミメキリンのことで間違いないわ!」

「ほう! お前か!」

 背後にいる(違うんじゃあないかな~)という顔のアリツカゲラに気付かず、ヘラジカはキリンに話し掛ける。

「では頼みがある! ジャガーを見つけ出してくれ!」

「どこかへ行っちゃったの?」

「いや、じゃんぐるちほーにいるはずだ! だが私が訪ねると何故か姿を隠してしまうので、あらかじめ誰かに捕まえてもらってから、会いに行こうと思ってな!」

「つまり容疑者を確保すればいいというわけね! 任せて!」

「うむ! よろしく頼むぞ!」

 奇跡的に会話の噛み合った二人は、がしっと握手を交わす。その様子をオオカミは面白そうにスケッチする。

 キリンが意気揚々とロッジを出て行くと、ヘラジカはオオカミのほうを振り向いた。

「ところでお前も中々強そうだな!」

「え?」


 ハシビロコウ(ヘラジカをロッジまで連れてきた)に運んでもらい、じゃんぐるちほーに辿り着いたキリンは早速行動を始める。

「捜査開始よ! 私の推理によると、ジャガーさんは川のほうにいるわ!」

 大声で宣言しながら、キリンが川に向かおうとすると……

「ん? 私のこと、呼んだ?」

「うわー!?」

 真上にあった木の枝からジャガー本人が、ぴょんと飛び降りてきたのだった。


「あー、ヘラジカか。私も困ってるんだよ」

 キリンの話を聞き、ジャガーはぽりぽりと頭を掻いた。

「貴女も困ってるのね! ならその悩み、この名探偵アミメキリンが解決しましょう!」

「たんてい? いや、よく分からんが、こないだからヘラジカに勝負を挑まれてさ。断ってるのにしつこいんだ」

「勝負をしたくないってこと?」

「まぁ、何かの拍子で怪我でもしたら嫌だしさ」

「……あの」

 二人のやり取りを見つめていたハシビロコウ(ずっといた)が、おずおずと口を開く。

「ヘラジカ様は、ケンカがしたいわけじゃなくて、強いフレンズと戦ってみたいだけだから……お互いが怪我をしないような決まりで勝負をすれば、それで満足すると思います」

「そうなのか? なら一回ぐらい勝負してあげてもいいけど」

「……ぉーぃ……」

「ちょっと待って。何か聞こえない?」

 小さく呼びかけるような声に、キリンがキョロキョロと辺りを見回す。

「……おーい……」

「確かに聞こえるわ……私の推理によれば、声の主はそこね!」

 びしっとその辺の草むらを指さすキリンに、

「いや、こっちだよ」

 空から降って来たオオカミが、華麗な着地を決めるなり突っ込みを入れる。

「先生!? どこから!?」

「彼女に送ってもらったんだ」

 オオカミが示す先には一人のフレンズ、トキが羽ばたいていた。

「ありがとう。君が通りがかってくれて助かったよ」

「いいのよ。丁度ジャパリカフェに行くついでだったから。それじゃ」

 トキが近くの山のほうへ飛んで行くと、キリンはオオカミに向かって尋ねた。

「先生、どうしてこちらに?」

「どうもこうもないよ。私もヘラジカに勝負を挑まれてね。ずっと追い掛け回されて、ロッジ中を逃げ回っていたんだ。たまたまトキを見かけて、ここまで送ってもら……」

「見つけたぞオオカミ!」

 再び聞こえた声に一同が上を向くと、アリツカゲラに抱えられたヘラジカの姿があった。

「ジャガーもいるではないか! さすがだな名探偵!」

「え! いやー、それほどでも!」

 珍しく褒められて照れるキリン。

「ではまず先にジャガーと勝負か! 何なら二人一緒に相手してもいいぞ!」

「私はお客様が来るかもしれないので、先に帰りますね~」

 ヘラジカを降ろしたアリツカゲラは、飛び去ろうとしたのだが……

「ちょっと待った。キリンもちょっと」

「え~なんですか~?」

「どうしました先生!」

 オオカミは、アリツカゲラとキリンを手招きすると、二人に小声で何か話した。

「さあジャガー! どうやって勝負する!」

「いや、怪我しない方法なら何でもいいけどさ」

 そんな二人の間に割って入ったのは、キリンだった。

「私に提案があります!」


「さて。ただ今からヘラジカさんとジャガーさんの勝負を始めます!」

 キリンの言葉に、ヘラジカとジャガーは一歩ずつ前へ踏み出した。

「勝負の方法は簡単よ! 先に山の上にある『ジャパリカフェ』に入った方の勝ち! 二人とも、いいかしら?」

「望むところだ!」

「分かった」

「判定は、先にカフェに行ってる先生……オオカミさんがするからね。それじゃあ、用意……」

 キリンは自分の長いマフラーの先を掴むと……

「どん!」

声と共に『ばさっ!』と思い切り振り下ろした。

同時にヘラジカとジャガーは、山へ向かって走り出す!


「うおおお!」

 ヘラジカは驚くべき跳躍力で、崖を跳び上がるように登って行く。僅かな出っ張りや凹みを足掛かりにしているのだ。

「はっ! やぁっ!」

 ある程度登ったヘラジカは、剥き出しの岩肌を掴んで立ち止まると、己の上って来た崖を振り返った。

「ジャガーの奴め、来ないじゃないか。まさか早々に諦め……ん?」

 眉をひそめたヘラジカは、僅かな気配を察して顔を上げると……

「と、と、と」

「なっ!」

 山頂まで張られたロープウェイ用のロープの上を、慎重に、しかし確かな足取りで、ジャガーが綱渡りしているではないか。

「それはありなのか!?」

 思わず叫んだヘラジカだったが、ジャガーもさすがに会話するほどの余裕はないらしく、

「悪い今ちょっと忙しいから後で!」

 と早口で返して、ロープを渡り続ける。

「……面白い!」

 ヘラジカは再び、猛然と切り立った崖を登り始めたのだった。


「よっと」

「とう!」

 二人が山頂に立ったのは、ほとんど同時だった。

「えっと、カフェは……」

「あそこか!」

 オオカミが横に佇む建物を見つけた二人は、そちらに向かって猛ダッシュする!

 そして……

「うおおお!」

「……!」

 ヘラジカとジャガーは、折り重なるようにカフェへと足を踏み入れた!

「ふぁ~、いらっしゃぁ~い。ようこそジャパリカフェへ~」

 入って来た二人に、カフェの店主アルパカ・スリが笑顔を浮かべる

「ど、どっちが先だった?」

「そんな焦らなくても、大丈夫だよぉ~。席も飲み物もいっぱいあるからぁ~。いんやぁ~、今日はお客さんがいっぱいでうれしいなぁ~」

 尋ねるヘラジカに、アルパカはいそいそと紅茶の準備をしながら答える。

「いや、そうではなくて……」

「あれー? ヘラジカじゃあないかー」

 ヘラジカの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

「ら、ライオン!?」

 ジャパリカフェの席に座って、ライオンが紅茶を飲んでいた。

「まさか、私よりも先にここに辿り着いていたのか!?」

 驚愕に目を見開いて、打ち震えるヘラジカ。

「いや確かに君より先にいたけどさ。私はアリツカゲラにカフェを教えてもらって……」

「さすが……さすがライオン! それでこそ我が最大のライバルだ!」

「うん、まあ何でもいいか。こっち来て、君も飲めば?」

「うむ! いただこう!」

 ライオンと一緒に嬉しそうに紅茶を飲み始めたヘラジカを見て、ジャガーはがくっと肩を落とす。

「……分からん。結局、何だったんだ?」

 そんなジャガーの背中を、オオカミがぽんと叩いて、こう言った。

「お疲れ様。いい表情、いただきました」

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キリン探偵のアミメ捜査 三角ともえ @Tomoe_Delta

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