第7回活動報告:試験の準備
活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
魔術が使えるようになって、訓練はさらに激しさを増した。
まあ、仕方がない。
この魔術を使うというのが、この異世界における基本的な戦い方なのだから。
魔術というのはかなり自由の利く力のようで、大体の自然現象はもちろん、妙な錬金術みたいな加工能力とかにも使えた。
まあ、炎による高熱加工とかはもちろん、宇野空先輩は物体の形を自由に変えるような魔術を使えるようになったりして、かなり用途は広そうだった。
流石は賢者といったところか。
越郁は勇者とかいうモノのおかげか、それとも、色々なゲームや漫画、ラノベを読んでいたおかげか、応用についてはものすごく幅が広く、楽しそうにやっている。
まあ、訓練だけの話しで、日常生活はだらしないのは相変わらずだ。
一方、僕はそこまで自由自在とまではいかないけど、普通にわかりやすい、炎、水、氷、土、雷、風とかは出せるので、ここまでできれば問題ないと思う。
3人とも幸い治療も魔術も覚えられたので、そのおかげというか、さらに里中先生の訓練の激しさが増した。
「はい。今日はここまでですね」
「「「は、はい。ありがとうございました」」」
それなりに僕たちも人外じみてきたけど、それでもやっぱり里中先生にはかなわなかった。
そもそも、僕たちの魔術を無効化とかして、先生はそのまま魔術を使えるとかいう、ジャミングとか言うのを使ってきたりするので、戦術の幅が一個二個上なわけだ。
僕たちもジャミングとかを解除しようと試みても、カウンターでそのジャミングをジャミングされてしまってやられてしまった。
この技術は地球の兵器の一つであるECM、ECCM、つまりジャミング、対ジャミング機械の発想で、基本的に異世界管理局の基礎装備らしい。
新しい異世界が発見されたときは、こうやって、しっかり対策を立てているのでちゃんと仕事をしているんだなーと思う反面。
僕たちにはこれしかないので、封じられるとボコボコにされてしまうわけだ。
「最初のころに比べると格段に腕は上がりましたね。ようやく、MCMの効果範囲から出て撃つということに気が付きましたね。そういうことを戦闘中に読み取って戦いの流れを握るというのは大事なんです。いいですか、あなたたちは特殊な力はありますが、それを封じられた時、一番危険となります。その時どれだけ冷静にいられるか、そして、普段から鍛えている基礎の体力がものをいうのです」
言っていることは身をもって知ったからよくわかる。
一番最初にやっていた基礎訓練がなければ、何もできずにボコボコにされていたのはよくわかる。
「あとは魔術をどう使うかなどは、状況によりけりなので、具体的に教えることはできませんが、火力や精度の調整をできるよう、常に訓練するのはやめないように。味方ごと吹き飛ばすのではなく、敵だけを的確に狙って倒す技術というのは重宝しますからね」
いつものように、そんな感じで、訓練後の反省会で先生からの今後の課題などの話しで終わるはずだったのだけど今日は違うようで、すぐに晩御飯の準備には入らなかった。
「さて、いつもなら晩御飯の準備ですが、今日はもう少しお話があります。あなたちは今日までよく訓練に励んできて、ちゃんと結果を残してきました。その結果を鑑みて、私はそろそろあなたたちの実地訓練、ちょっとした調査員としての活動をしてもいいのではと思っています」
「おお!! ということは、それをクリアすれば正式な調査員になれんですね!!」
越郁は先生の言葉に喜んで食いつく。
まあ、ここ二週間ばかり、訓練ばかりだったからな。
異世界においてはやく40日以上。
いや、普通の軍隊とかで考えると、まだまだ基礎訓練の段階なんだろうけど。
「流石にそこまで都合のいいことはありません。まずは、今まで教えたことがちゃんと身についているのか、この世界で生きて行けるかを試してもらいます」
「具体的にはどうするんですか?」
「そうですね。まずは、この異世界に初めて来た時に出会ったドラゴンを倒してもらいましょう。あれは、ここ一帯ではそう珍しくない生き物です。私が近場の安全を確保するときも数体確認しましたからね。わざと手をださなかった個体もいますので、いなくなっていることはないでしょう」
「えーと……ドラゴンとか、勝てるんでしょうか?」
聞く限り超ハードな試験を提示されて、越郁は顔がこわばっている。
いや、それは僕や先輩も同じだろう。
あの時追い回されたことはそうそう忘れられない。
「もちろん勝てると思いますよ。まあ、油断しなければですが。あと、流石に銃器などの近代兵器の使用は禁止します。使っていいのは、刀剣などの近接武器と魔術のみでお願いします。この世界で活動していく上で、こういう戦い方は必要不可欠ですから」
「「「……」」」
言っていることはわかるけど、流石にドラゴンはなんというか、ラスボスか中ボスに挑んで来いとかいう無茶ぶりに聞こえるのは気のせいだろうか。
こう、普通はもっと、スライムとか、ゴブリンとかそういう弱い魔物とかを相手にするのではと言おうと思ったら……。
「ドラゴン退治の過程で他の動物や魔物とも遭遇するでしょうから、その対応も含めてみますのでよくよく注意してくださいね」
ああ、ドラゴンだけではなく、全部ひっくるめたような試験ということか。
「えっと、期限は……」
宇野空先輩が少し遠慮がちに聞く。
その姿を見て、まさか、当日退治とかいわないですよね? と思いながら里中先生を凝視していた。
「そうですね。1日2日で見つかるとは思っていませんし、あなたたちのサバイバル能力の確認でもありますから、今度の日曜日での訓練時間6時間、6日ほど使ってこなしてもらいましょう。目標の捜索と退治をこの期限で達成してもらいましょう。別に失敗してもいいんです。それはそれでいい経験になりますので、そこま気負いせずに頑張ってください。では、晩御飯の準備に取り掛かりましょう」
そういって、里中先生は家に入っていく。
「とりあえず、晩御飯を食べたら、報告書書いて、その後、私の部屋に集合」
「わかった」
「わかったよ。前もって話しておかないといけないことが多すぎるからね」
越郁の言葉を否定することなく、夜の用事が終わってから集まることとなった。
「さて、議題は里中先生攻略ではなく、ドラゴン退治をどう行うのかになります」
そういって、越郁は話し合いを始める。
いつもなら、里中先生にどうやって一撃をいれるかとか、魔術の応用などの話をするのだけれども、今日は、訓練終わりに言われた課題、ドラゴン退治についてだ。
「まずわかっているのは、里中先生は今回の課題で私たちが今までの訓練をちゃんと学べているかというのを見るというのは理解していると思う。最初から最後までちゃんとしないといけないわけだ」
越郁のいう通り、ただドラゴンを倒せばいいという話ではない。
今までの訓練の成果を見せる時なのだ。
「退治期限は6日だったね。つまり、ある程度の遠征を想定した装備で行かないといけないわけだ」
宇野空先輩はそういって、持っていくべきもののピックアップを始めた。
「えっと、先輩。食料が多くない?」
「そうだね。でも、ぴったり6日で終わると思うのはお気楽すぎる。想定の倍は流石にかさばるから、1.5倍、9日分ぐらいは持って行こう。こういうのも評価対象だろうからね」
確かに、期限については6日だけど、実戦を想定するなら万が一は考えないといけない。
たくさん持っていくのは物理的に無理だけど、なるべく食料は多いほうが精神的にも安定につながるって話があったな。
「薬品の関係は私が制作したポーションを持って行こう。一人当たり約5本。効果については君たちも十分に知っているだろう」
そう、宇野空先輩は賢者のスキルのおかげか、異世界の家の周りに映えている草の鑑定ができるようで、その中で薬草なるモノを見つけて、ちょいちょいと錬金術でやると、RPGなどでは定番の飲むだけで、かけるだけで傷がすぐに治ってしまうというミラクルな薬品の生産に成功している。
しかも、そこまで服用容量は少なく、小さい試験管で多数持ち運びができる夢のようなアイテムだ。
「あーあー、アイテムボックスが堂々と使えれば楽だったのにねー」
「それは仕方がないだろう。アイテムボックスの能力は禁止とは出てないけど、それだけだと、確実にジャミングで使えなくしてくるだろうね」
「だよねー」
僕たちはこの世界にきたことで、異空間に荷物をしまっていつでも取り出せるという、凄い魔術、スキル、アイテムボックスというのを開発したんだけど、それはあっさり封殺されて……。
『確かに便利な力ではありますが、それが使えなくなった時、荷物も持っている人よりも不利になりますので、準備を怠っていいわけではありませんよ』
とお説教を受けた。
その時は、葉っぱなどをアイテムボックスにたくさん詰め込んで、一気に放出してそれをさらに燃やして里中先生を丸焼きにしようと、越郁が提案したのだが、葉っぱを少し出した時点でアイテムボックスは封印されて、風の魔術でこちらに逆に向かってきて、それに炎をつけられて燃やされた。
なので、アイテムボックスを頼りにというのはあんまり考えていない。
もちろん、必要な道具などは入れているけど。
自宅からこの訓練場に荷物を持ち運びするのはとても楽だったからね。
「まあ、荷物はそれぐらいでいいだろう。あとは武器の選別はどうする?」
「うーん、普通に槍でいいんじゃないかな?」
「そうだね。メインに槍、サブに剣でいいんじゃないかな」
普通に剣とか刀とか言いそうだけど、普通に射程の長い武器の方が有利なので、僕たちは槍をメインで教わっている。
近距離は剣よりもナイフの方が小回りが利くし、実はあまり剣は出番がない。
RPGみたいに最大火力は見栄えのいい剣ではない。
現実は重火器である。
シールド、盾の準備は今回無しとなった。
あの大きいドラゴンの一撃を盾ごときで受け止められるわけがないので、回避主体ということになった。
「じゃあ、あとは道中で遭遇する動物とか、魔物はどうするかって話だけど、何もしらないよね」
「だね。対策の立てようもない」
そう、僕たちはこの家の近くで訓練をしたいただけで、周りの生息している生物のことは全く知らないのだ。
「なら、里中先生に聞こう」
情報収集が大事だと教えてくれたのは先生だし、これは聞けという前振りだと思ったのだ。
2人もそう思ったらしく、一緒に先生のところに行ったのだが……。
「ああ、初見の相手に対する訓練や観察による危険察知の訓練も兼ねていますので、そこらへんは自分たちで判断してください」
「「「え?」」」
「私のところに情報を集めにきたというのはいい判断です。残念ながら危険な動物や魔物のことは教えられませんが、ドラゴンの生息地は教えてあげましょう」
「そっちはいいんですか!?」
「冒険者ギルドの仕事で、指定地域以外で討伐依頼のモンスターを倒しても仕事をしたことにはなりませんからね。普通に教えることですよ」
ああ、たしかにその通りだ。
「こっちのことは気が付いていなかったのですね。ここは減点かも、といいたいですが、私に情報を聞きにきたのでよしとしましょう。方角は北北西、北を12時とした場合、11時の方向へ30キロ行ったところですね。コンパスで確認するといいでしょう」
「30キロですか? 思ったよりも遠くないですね」
「平地なら車で30分ほどじゃないかな」
「そうですね。しかし、周りは森林ですから、まっすぐ進めるわけではありませんし、先ほど言った危険な動植物に魔物までいますから、簡単ではないですよ。体力の配分や休憩の取り方に気を付けてくださいね」
はあー、そういうことも考えるのか。
やっぱり先生に話に聞いたのは間違いではなかった。
思った以上に、注意しなければいけないことが多かった。
「とりあえず、日曜日まであと3日あるから、その間に連携とか、攻撃手段の確認とか、離脱の方法を確認しよう」
「そうだな」
「そうだね」
そういうことで、これから3日はドラゴン退治のための訓練をするために、励むことになる。
「ゆーや!! フォローお願い!!」
「おう!!」
「勇也君!! こっちも頼む!!」
「はい!!」
無事に終わるといいなーと思っているけど、ここまで準備をしても不測の事態は起こるんだろうなーという嫌な予感は頭から離れなかった。
というか、なんで僕がこんなに使いまわされているのかな?
2人は連携の練習してるよね?
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