名探偵アミメキリンと呪われた歌姫

ふくいちご

ろっじ



 + 名探偵アミメキリンと呪われた歌姫


 その日は雨が降っていた。

 雨で濡れることを嫌うフレンズは多くロッジアリツカにもフレンズたちが集まり、身を寄せ合って雨があがるのを待っていた。私こと名探偵のアミメキリンとタイリクオオカミ先生もロッジに滞在して、静かに漫画を読んでいた。すると、


「キャァァァァ!」


 私たちは顔を上げた。甲高い少女の悲鳴が聞こえたのだ。

 嫌な予感を感じた私たちは急いで談話室へむかい、談話にいたみんなと出会った。


 談話室にいるのはロッジアリツカのオーナーであるアリツカゲラ。

 ジャパリパークの歌姫トキ。

 フードを被った怪しい少女ツチノコ。

 なんでここにいるのかわからないスナネコ。

 漫画家のタイリクオオカミ先生。

 そして名探偵であるこの私だ。


「どうしたのですか。誰の悲鳴?」


 アリツカゲラは戸惑っているようだ。


「わからないわ。私が歌を歌っていたら、あの子が急に……」


 最初から談話室にいたのはトキだった。トキは机につっ伏して倒れている一人のフレンズを指差した。ミナミコアリクイだ。

 私はすばやくミナミコアリクイに駆け寄って、頭をペシペシと叩いてみた。反応はない。


「……死んでる」

「気絶しているだけだろう。息もしてるし」


 先生が反論した。


「……しかし、一体誰がアリツカゲラをこんな風に」


 アリツカゲラは困惑しているようだ。


「では、アリバイをとってみましょうか。みんな、さっきまで何をしてたの?」


 私が訊ねると、フレンズたちはさっきまでやっていたことを話し出した。


「私はこの部屋でミナミコアリクイちゃんと一緒にいたわ。新曲の、とても高い声の歌を歌っていたの。なのに、どうしてこんなことに……」


 トキが悲しそうに呟く。


「オレは外にいたぞ」


 ツチノコが答えた。


「……外でぼんやり花を見てた」

「花? 怪しいわね!」

「なんでだよ!」


 何をしても怪しいツチノコはおいといて、次はツチネコだ。


「……部屋で寝てました。雨で湿気が多くて、やる気がでない」


 スナネコは砂漠ちほーに生きるフレンズだし、こんな天気の日は辛いのだろう。


「わ、私はジャパリまんの倉庫にいました」


 アリツカゲラには動機がないように感じる。アリツカゲラとミナミコアリクイが話していたところなんて見たことがないのだもの。

 犯人はどうしてこんなことをしたのだろう。


「ちなみに私は先生と一緒に部屋にいたわよ。まあ私は名探偵だし疑われることもないだろうけどね」


 これでそれぞれのフレンズたちの証言が終わった。アリバイがないのはスナネコとツチノコかな。


「いったい誰がアリクイを殺したのかしら」


 謎は深まるばかりだ。


「フンッ。こんなところにいられるかッ! オレは帰るぞ!」


 ツチノコは勢いよく談話室を出た。


「でも外は大雨ですよぉ」


 スナネコがのんびりとした口調で呟く。


「心配ね。ちょっと見てくるわ」


 私は談話室を出てロッジアリツカの入り口へと向かった。タイリクオオカミ先生もついてきた。

 外は一寸先も見えない大雨で、夜のように暗い。暗闇の中を稲妻が走り、雷鳴が轟いた。私はどしゃぶりで流れる地面に目を凝らすと、ツチノコが横たわっているのに気がついた。


「ツ、ツチノコ⁉︎」


 ツチノコを助け起こすと、ツチノコの頭から血が流れていた。ぐったりして動かない。


「転んで頭をぶつけたみたいだね」

「一体誰がこんなことを……ッ」


 私は犯人への怒りを燃え上がらせ、ツチノコを背負って談話室に戻ってきた。

 談話室にはスナネコしかいない。トキとアリツカゲラはどこに消えたのかしら。


「二人なら寝室の方にいっちゃいましたよぉ。雷にびっくりしたみたいで」

「心配ね。急ぎましょう先生ッ!」


 倉庫に向かった私たちが目撃したのは、倒れ伏したアリツカゲラとそれを青ざめた顔で見下ろすトキの姿だった。


「トキッ! あなたが犯人だったのね!」

「違うわ! 私はこの子が怯えてたから、励ますためにちょっぴり刺激的な新曲を歌ったの……」

「そんな言い訳は通じないわ! さあ、白状なさい!」

「ち、違うわ。本当よ。本当なのっ」


 トキは泣きながら部屋を出ていった。


「待ちなさい!」


 私はトキを追いかけ、再び談話室まで戻ってきた。

 スナネコもトキもいない。どこにいったのだろう。

 すると事態を見守っていた先生が楽しそうに笑った。


「……ふふ。もしかすると、このままロッジにいるフレンズが全滅するかもね」

「不吉なことを言わないでくださいよ、先生」

「だけど、なかなか面白そうな話のネタじゃないか。犯人がいたとしたらそれは誰になるだろうか」

「トキよ。まちがいないですよ」

「はたしてそうだろうか。では、私はあえて私たちが犯人だと考えてみよう」

「私たち? 私は犯人ではありませんよ」

「……前にも言わなかったっけ。フレンズの形をしたセルリアンの話さ。私たちは自分のことをフレンズだと思っているけれど、実はセルリアンだったんだ。気がつかぬ間にみんなを眠らせて、後でまとめていただこうと考えているのかもしれないね。私たちは」


 先生は、なんて不吉なことを思いつくのだろうか。

 とすると、私は私が覚えていないだけで、みんなにひどいことをしていたというの。そんなはずは……。

 焦る気持ちを押さえつけながら、私はトキを探してロッジアリツカの中を走りまわった。

 二人は寝室“みはらし”の中にいた。野外なので雨ざらしだ。

 ぐったりしたスナネコを、トキが抱きかかえている。顔が真っ青だった。


「トキ……。あなた……」

「ち、違う。スナネコが心配して見にきてくれたら、雨に濡れて、こんな風になっただけなの……。私はもしかして、呪われてる? 嘘よ、そんなはずがないわっ!」

「何をする気なの? はやまらないで、トキっ!」


 トキはスナネコを抱きかかえたまま後ずさり、手すりを飛び越え……そのまま真っ逆さまに落ちていったのだった。


「トキィィィ!」

「いや。彼女は飛べるだろ」


 先生がまたもや反論した。


「これで二人だけになってしまった。……トキも犯人ではなかった?」


 とすると、残るは私と先生しかいないじゃないの。


「ま、まさか先生がッ⁉︎」


 私は問うと、先生はニヤリと笑った。雷はあいかわらずゴロゴロと鳴っている。


「フフッ。バレてしまったようだね……って感じでやりたかったんだけども、移動しないかい? ここは雷が、ひゃ⁉︎ は、激しいんだけど! こ、怖いわけじゃ、ないよ? だけどワアアアア!」

「先生が犯人だっただなんて、信じられない! 観念してください!」

「手を離してくれ! 逃げなきゃ! うわあああん! いやだ! 怖い! 助けて!」


 ゴロゴロとひときわ大きな雷鳴が轟いて、先生の体がガクンとはねる。

 次の瞬間、先生は私の胸の中でぐったりしていたのだった。


「先生も死んだ……ッ」


 もうこのロッジには私しかいない。

 つまり、犯人は私だったのだ。


 私は天を仰いで、しとしとと降り注ぐ雨雲を見上げた。

 犯人になった名探偵なんて、もう名探偵ではない。


「でも。それはそれで……」


 私は先生をぎゅっと抱きしめた後、私はそっと目を閉じた。

 私も雷が怖すぎて限界だったのだ。








 +


「みんな気絶したりして運ぶのが大変だったけれど、なんとか部屋に入れることができたわ。そうだ。目覚ましがわりに一曲に歌ってあげましょう。ムフ。……どんな反応をするか楽しみだわ」


 その後、トキの新曲は歌唱禁止となった。

 しかしその噂は呪われた悪魔の歌として、フレンズたちの間でまことしやかに囁かれているのである。



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