長として、友として

ハセ

第1話

「美味しい……!上手くできましたね助手!」


「やりましたね博士。あの時、かばんに作ってもらったものと比べても遜色ない味です」


「当然ですよ助手。我々は賢いので」


「そうですね。我々は賢いので」


ある日の夜、木の皿に盛られたカレーをパクパクと食べながら、コノハ博士とミミちゃん助手はそんな会話を交わしていた。

かばんに作ってもらったカレーを食べてからというもの、二人はその味を忘れることができずに何度も試行錯誤をし、ついに今日その味を再現したのだった。


「しかし……何度やっても火の扱いには慣れないのです……まだ獣の本能があれを恐れているのですよ」


「火を恐れることなく簡単に扱うことができる……。改めて思いますがヒトというのは本当に興味深い生き物ですね……。ヒト以外でもハンターであるヒグマが火を恐れない、と聞いたことがあるので今度会ったらどうすれば克服できるのか聞いてみましょう。……それはそうと博士、前から気になっていたことがあるのですが」


「なんですか助手」


助手は博士のスプーンを持つ手を指さしながら一言、こう言った。


「その持ち方、食べにくくないですか?」


そんなことを言われた博士が自分の手に目を落とす。

そう、博士のスプーンの持ち方はいわゆるグー持ち。

二人は知らないがヒト基準で考えると正しい持ち方とは言えない……。


「べ、別に不自由は感じていませんが……では助手はこれの正しい持ち方を知っているというのですか?」


「それは……えっと……」


「…………」


「…………」


数秒間の沈黙、その後に博士がコホンと咳払いをした。


「ま、まあ今度かばんに教わればいいでしょう。どんな方法だったとしてもすぐ覚えられるはずです。我々は賢いので」


「そうですね。我々は賢いので」


そんな結論に至った二人は難しく考えることをやめ、各々の食べ方で食事に戻った。




*****



パークの長である博士のもとにはフレンズから毎日たくさんの依頼が来る。

食事のあと、博士は助手に片づけを任せ、その依頼をこなしていた。

依頼の内容は多種多様で、時にはかなりの時間を要するものもあるが、博士は今までそれらの作業を苦に思ったことは一度もない。

どんな依頼も結局はパークの発展につながるし、自分の知識や力がフレンズの仲間、友人の役に立てる。

それが何よりも嬉しかったのだ。


「それに……いろいろと得することもあるので」


少し笑みを浮かべながらそう言った博士の手元にあるのは、タイリクオオカミが描く漫画、『ほらーたんていぎろぎろ』の原稿だ。

新しく本にしてほしいと頼まれたもので、ほかの誰よりも早く最新話を見ることができるのは依頼をこなす者の特権だろう。

丁寧に描かれたイラストを見ながら、それをまとめる作業に入ろうとしたその時だった。


「博士!」


滅多なことでは取り乱さない助手が血相を変えて部屋に入ってきたのだ。



*****



その後助手にラッキービーストのもとに連れていかれた博士は衝撃の事実を知る。

巨大セルリアンによって訪れたパークの危機。

その力は強大でハンターたちの力をもってしても全く歯が立たないという。

そして何より……。


「かばん……」


その巨大セルリアンにかばんが食べられてしまったというのだ。

そんな絶望的な状況を知った助手が博士に決断を仰ぐ。


「どうしますか、博士」


こういう不測の事態の判断は博士が一任している。

普段は助手の方が若干優れていると思われがちな博士だが、こういう時の冷静さ、頭の回転が段違いなのだ。


「……もちろん、行きますよ助手。この話は他のラッキービーストを通じて多くのフレンズたちに伝わっているはず。飛行が可能なフレンズたちに協力してもらい、短時間で戦えるフレンズを集めますよ。我々の群れとしての強さを見せるのです!」


「わかりました、博士」


「……コノハ、ミミ」


すぐさま飛び立とうとする二人を、本来フレンズの名前など呼ばないはずのラッキービーストが引き止めた。

そして振り向く二人に一言、こう言った。


「カバンヲ……ヨロシクネ」


そんなラッキービーストに二人は顔を見合せた後、笑顔で返した。


「もちろんです、必ず助けます。我々はこの島の長ですが……まず第一に彼女の友なので!」


そう言うと博士は夜空に舞い上がり助手もそのあとに続いた。

残ったラッキービーストが見た夜空を飛ぶ二人の姿。

それは小さな背中に多くのものを背負った、誰もが認めるパークの長たる姿だった。






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