夏が動き出す。③

 アカミと俺達探偵事務所の関係性も、只の腐れ縁と言って差し支えないだろう。

 俺達3人はかつて、同じ高校の同級生だった。高校卒業後、俺とキントキは現在の仕事場を立ち上げたが、アカミは芸術大学に進学した。まだ学生ながら美術分野の立体作品でその才能を認められ、たまに個展を開いたりもしている。

 芸術の才能があり、趣味はジョギングと美術館巡り、そして、その美術館に岡本太郎かレンブラントの作品があればなお喜ぶ。

 性格は、世話好きで友達想い。


 こう書くと少しはましに見えるが、実際には今の我等が事務所にとっては疫病神、いや、時には自然災害にも等しい存在なのだ。

 従って俺はかつての学友との再会を喜んでいる場合ではなかった。

 来ただけでも十分やかましくて迷惑だが、どうか仕事の依頼なんかでは無く、ただ遊びに来ただけか、冷やかしに来ただけであってくれと心の中で神に祈った。

「さて、今日はまたどうしたんだい、アカミちゃん」

「うん、実はね、今日はキントキ君たちに依頼がある人を紹介しに来たんだ」

 結論。神など居ない。


 無論、探偵は儲かる職業ではない。

 特にここは実質二人だけでやっている小さな事務所だし、どこのお客も他所に行ってしまうのか、探偵によくありそうな浮気調査の依頼なんて3、4ヶ月に一回来れば多い方だし、時にはなんでも屋と勘違いされているのか、犬やペットの散歩や世話を申し付けられる事さえある。そんな仕事でさえ断れない程、うちの経営は逼迫ひっぱくしているのだ。

 だから知り合いが客として積極的に依頼に来てくれるのは有難い事のはずなのだが、アカミの場合は事情が少し違う。


 アカミは世話好きなのではない。困っている人を無理に見捨てようとすると病気になる体質なのだ。

 アカミは友達想いなのではない。世界中の人間を友達だと思っているのだ。


 だから普通に生きて、街を歩いていても、道端で何か困っている人がどうしても目についてしまう。困っている様子が、悲しそうな姿が、どうしても脳に焼き付いてしまう。


 俺も二十数年しか生きていないなりに生まれてから今まで様々な人間に出会って来たが、こいつのやる事は一番理解できない。

 人助けなんて、「骨折り損のくたびれ儲け」の良い例、一番やるだけ無駄な事じゃないか。


 そしてアカミが声を掛けた人々の抱える問題が彼女一人の手に負えない物だった時、アカミはこいつの友達の内の二人に頼る。

 そう、俺達だ。

 そして自ら厄介事を背負い込む人間にはまた、不幸を引き寄せる才能もあるのかどうか、まだ若い俺は知らないが、

 

 要するにろくな案件を持って来ないのだ、こいつは。



 

 

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