ひとりぼっち

「そんなことだろうとは思っていましたけれど」


 自虐的な笑みがこぼれる。


 再び、鏡の前。

 きらびやかなドレスを着たノアがそこには映っていた。だがしかし。


「ファスナーが締まらず背中パカーンだなんて。誰が想像したでしょう。私はちょっと思ってましたけど、手にとった瞬間から、ええもちろん!残念人間だってことはだいぶ前から知っていましたけれど。ここまでとは!」


 淑女や貴婦人が身につけるドレスなんてものはそもそも細かく採寸して、お針子が仕立て上げ、寸分違わず作り上げられるもの。

 もやんとした想像で作られた代物なんて身体に合うはずもない。


 着丈はまずまずとして、胸。

 胸があまりにもきつい。


「これはこれで悲しいですね。どれだけ貧相だと思われているのでしょうか」


 止めた止めた、とドレスを脱ぎにかかる。


 鏡の前で悶々と自分の姿を眺めていたら、あっという間に時は過ぎ、もう昼食会の時間だ。


「どうしてこうもついてないのでしょう……」


 神はなにゆえノアのような人間をこの世に化現させたのだろうか。


「私が生きている意味って何なのですか?」


 返事は、誰からも返ってこない。


 だって一人だから。

 ずっとずっと一人だから。

 おそらくこの先もずっと、一生、死ぬまで。


 脱げかけのドレスを引きずり、寝台へうつ伏せに倒れこんだ。


 目頭にだんだん熱がこもる。


 もういい。

 もう疲れた。

 もう楽にして欲しい。


 普段蓋をしている負の感情が一度に溢れ出してくる。止まらない。ーー涙も。


「寂しい、です……」


 自分だけが世界から取り残されているような感覚。

 気が狂ってしまいそう。


「限界です」


 そっと目を閉じる。

 目に映るのは真っ暗な闇。闇。闇。


 闇に身をゆだねて。涙に気がつかないふりをして。もう何も見たくなくて。


ノアはそのまま深い眠りについた。

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