今晩はご馳走?

 ガーランド王国。

 大陸の片隅にある小さな小国ではあるが、豊かな鉱物資源を武器に外貨を稼ぎ、国庫はつねに潤沢。

 春夏秋冬はあれど一年を通して比較的過ごしやすく、土壌は豊かで穀物をはじめとした農業も盛ん。

 家畜を育てればそれはそれはおいしい肉になり、一級品として扱われる。

 四季折々の花が咲き乱れて目にも楽しく、青々とした山々に加え、流れる清らかな大河が人々の生活に彩りを与えている。


 国民は皆この国出身であることを誇りに思い、またこの国を導く王族に敬意を払っている。


 王族、ガーランド家。

 現国王と妃には四人の子供がいる。

 王子が二人に姫が二人。


 末の娘であり第二王女であるーーノア•レティ•ガーランド。


 他の三人は豪華絢爛な王宮に国王夫妻とともに住んでいるのに対し、訳ありのノアは一人で住んでいる。


 王宮がある敷地内の端の端のそのまた端。

 人目につかない庭園の奥のひっそりとした場所。隠されるように四方を木で囲まれた、今にも崩れ落ちそうな古小屋で。


「住めば都と言いますし。そんな大層な身分の肩書きがあったって腹の足しにもなりゃしないですけれど」


 よっこいしょ、と背中に狩猟用の弓矢を背負い、外に出ようと意気込むも扉が開かない。


「そろそろこの扉もガタがきていますね」


 ドアノブを回したまま、王女らしくもなく扉の角を足で蹴る。

 立て付けの悪い扉を一発で開ける時のコツである。


 ようやく外に出れば一面の雪景色。

 どうりで今朝は冷えこむはずだ。


「でもやらねば!」


 寒さでかじかむ手を擦り合わせて手を温める。


 集中すべきは目の前の食糧。

 もとい、寒空を自由に飛び回っている鳥、今晩のディナーのチキンだ。


「あ。でも今日は物資が届く日だから……」


 ちらり、と地面に置かれた麻の袋に視線を落とす。


 先ほど使用人が持ってきてくれた荷物。毎月、月一回だけある王宮からの仕送りがこれだ。


 中身はだいたい決まっている。

 本が数冊と下着類、香辛料に、あとは日持ちする果物やら野菜やらが少々。


 いつもより少し袋が大きくて膨らんでいるような気もするけれど、気にしないでおこう。


「あてにしてはいけません。自問自答。自給自足。一人で生き抜くための基本です」


 空に視線を走らせ、ギギギと弓を引き、獲物を定める。


 ここ最近は天候が荒れていたこともあって、鳥がなかなか姿を現さず、肉が手に入らなかった。

 なんとか保存用の干し野菜などで飢えをしのんだが、さすがにそろそろ肉が食べたい。


「肉……肉……肉っっ……!」


 勢いよく放たれた弓矢が一直線に空を真っ二つに割る。

 見事お目当ての鳥に命中し、そのまま地面へ落下した。


 急いで駆け寄って鳥の状態を確認する。


「即死、ですかね。苦しまなかったでしょうか? 痛くなかったら良かったのですけれど……良くはないか。ごめんなさい」


 しっかりと手を合わせて。命をいただいたことに感謝をする。


 狩りをして初めて鳥の命を奪ったとき。あまりの辛さに嘔吐してしまったことがある。


「生きるということは、本当に大変で厄介なことだらけですね」


 しみじみとため息ひとつ。

 さて、と慣れた手つきで鳥を捌き、麻袋とともに小屋の中へ持ちこんだ。


「チキンと付け合わせのお野菜、あとパンがあればこれ以上の贅沢はありませんが」


 どれどれ、と麻袋を縛っていた紐を丁寧に解く。

 中身を見るなり「おや?」とノアは首を傾げた。

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