新堂透真の場合

 どうすればいいのか? 刑事の彼は考えていた。

「新堂さん、そこまで考えることですか? この事件」

「村田君、失踪した二村が本当に故意で金柳を殺害したという見解に賛成なのか?」

 村田は新堂に二村の指名手配について問いかけられていた。

「いや、そもそもこの場合失踪した二村が関わっているという証拠があるじゃないですか。現場のあの包丁からは、確かに二村の指紋が検出されていますし……それに」

「それ以外の道理は考えられないという上からの通達だったな」

 二村が関わっているという考え方は寧ろ賛成なほうだった。しかし、新堂には解せない点があった。まず、動機が見当たらないのだ。

「動機もなしに、しかも二村とは大学卒業後、疎遠がちだったと調べでなっていた相手を殺す意味が掴めない」

「けど、殺されてますし」

 新堂の言葉に、村田はどうにも固い人だなと考えていた。そもそもこの事件の前に、二村には捜索願いが出ていた。確かにそんな二村が金柳を殺害するには、十分な動機がない。ないからこそ、むしろそれが動機なのではないかという自分なりの解釈でもあったが、新堂の話ではどうにも裏がありそうな事件だという事だった。

「私はもう一度、二村の自宅に行ってみる」

 新堂はそう言って警察署を出ていった。


「どうにも解せない」

 新堂は理に適わない事に関しては、本当にストレスになるタイプだった。車で移動中に、なぜ今回金柳を殺害する必要があったのか? 動機が本当に見つからないと考え込んでいた。身辺調査をしても、それらしい決定打が出てこない。証拠もあるが、そもそも二村が金柳を殺して何の得があったのか。そう考えると、どうにもストレスになった。

「何かあるはずだ」

 そう呟いてから二村の住んでいた自宅へと向かった。数分後、二村の住んでいたマンションの一室に着く。

「お願いします」

 マンションの管理人に鍵を開けてもらい、中へと入る。

「……」

 中は綺麗に整頓された部屋だった。いや、もう三回ほど訪れているが変わった形跡もない。新堂は凶器となった包丁が収納されていたとされる収納棚を開けた。

「同じか」

 何度見てもきちんと全ての包丁収納口に綺麗に入っている。その事から、店で購入したのだろうという見解があったが、そもそも二村を目撃した人物はいない。

「……」

 再び新堂は沈黙した。次の瞬間、新堂の携帯が鳴る。

「村田君か。どうした?」

「大変ですよ新堂さん! すぐに署まで戻って下さい!」

「一体どういうことだ?」

「とにかく署まで!」

 そのまま村田からの電話は切れてしまった。マンションの管理人に礼を言うと、新堂は署まで急いで戻った。


 署内はざわついていた。そこへ新堂が帰ってきたのを確認すると、村田は直ぐにあるものを見せた。

「新堂さん! これ見てください! 凶器の包丁が……! あとこの現場の写真です!」

「!? なんだ、これは?」

 新堂は村田からこう伝えられる。鑑識で調査されていた包丁が、被害者の血痕をそのままにおもちゃの出刃包丁に変わっていたこと。そして、現場の写真の中に人形が写りこんでいること。この二つのことで、今署内は混乱が起きているという事だった。

「落ち着けみんな!」

 署長の南が混乱する署内を一喝した。

「今の段階で、鑑識からはすり替えられたという跡もないとされている。血痕の付着の仕方まで以前の物と同じだそうだ。写真の人形に関しては、見落としではないかという意見があるが、あの時こんな人形はなかった。正直俺もよくわからんが、二村が失踪時に二村の同僚が言っていたメリーというものが気になる。みんな急いで二村の事を洗い直してくれ! 何か分かるかもしれん。それと村田! 勝手に鑑識から持って行くな! 後で署長室へ来い!」

 村田が勢いよく返事をする。そして、署内はやっと普段の状態に戻る。

「……」

 混乱を隠し切れないのは新堂も同じだった。しかし、沈黙し考える。その時、南に声を掛けられる。

「二村の自宅の様子はどうだった」

「特には変わっていませんでした。あの写真の人形らしきものもなかったです」

 南は顔をしかめて、少し話し辛そうに話し始めた。

「新堂、お前メリーさんって都市伝説を知ってるか?」

「え?」

 恥ずかしそうに南は話す。

「都市伝説だよ。こんな時にそんな話しか浮かばないのもどうかしているとは思うのだが……」


 南と話した後、新堂は都市伝説でのメリーさんを自分のデスクのノートパソコンで調べる。

「人形が持ち主を呪い殺す……か。非現実的だな」

 署長がそんな話をするもので聞いていたが、署長自身もそれは非現実的だと言っていた。署長室に呼ばれていた村田が帰ってくる。

「驚きですよね、新堂さんも。俺もあんなの初めてですよ。って、それなんですか? あ、メリーさん? ……あー!」

「そのメリーさんかもなという署長の話でな」

 新堂にそう答えられ、村田は苦い顔で言った。

「そりゃないっすよ……」


 一通りの仕事を終えた新堂は家路につく。今日一日を振り返ってみたが、やはりメリーというのが一番気になることだった。その日は署から何の呼び出しもなく、一日が流れた。

 朝自宅で起きると、携帯に着信があったらしく点灯していた。

「村田か」

 今日の早朝に電話があったらしく、すぐに折り返しの電話を掛けた。

「あ、新堂さん! 大変ですよ! またですよ!」

「? また何かあったのか?」

「昨日、金柳の時と同じやり方で殺害事件が起きたんですよ!」

「なんでもっと早く連絡しない! 現場はどこだ!」

 そう言って殺害現場を聞いて電話を切ると、すぐに車で現場まで急行した。


「新堂さん! こっちです!」

 現場は金柳の殺害された場所からは全く違う位置にある公園の石碑前で、殺害されたのは木野宮杏奈という学生だった。額には金柳の時と同じく包丁が刺さっている。

「またこれがおもちゃに変わるのか……」

 ぼそっと言った新堂の一言に、村田は申し訳なさそうに言った。

「新堂さん……言いにくいんですが、今回は犯人が捕まってまして……」

「何!? 二村か?」

 勢いよく聞く新堂に、申し訳なさそうに村田は言った。

「これは、金柳の時の模倣だそうです。犯人は宮下章夫という同じ学校の学生で、痴情のもつれで殺したと自白してまして……金柳の時と同じように被せれば、バレないと思ったらしいです」

「……そうか」

 やや悔しい表情で殺害された学生を見る新堂だったが、この事件は殺人事件として一般メディアに報道された。


 それから一ヵ月後、謎の事件が起きる。その殺害された人物の額には、おもちゃの包丁が刺さっており、現場を写した写真には、あの人形が写っていた。

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