第3話 -ワイバーン(仮)

「ねぇ、なんでケモ耳が生えてるの?聞いてないよ?ねぇアン。なんで?」


 俺の鬼気迫る様子にアンは

「い、いやだってそんなこと聞いてませんもん!私は悪くないです!悪いのは全部あの神様です!」


「よし。どれだけ時間がかかってもいい。あのクソ爺ぶん殴りに行くぞ。」


 若干涙目になって答えるアンに俺はそう答える。にしてもケモ耳かー…


「冒険者のおにーさん、おねーさん。こんな僕じゃ街に行ったらやばいでしょうか…」


「え、あ、いや!そんなことないよ!魔王様だとしても俺らが何とかするから!安心して!」


 おにーさんのうちの一人が焦ったようにそう言う。ん?ちょっと待って


「え、俺が魔王だって?今、え?」


「だって魔王様がケモ耳なのは有名な話ですし…勇者様がお生まれになったので魔王様もいらっしゃるはずです。しかも獣人族はとうの昔に滅びてるのですよ!」


 俺のことをもふもふしながらおねーさんがそう言う。まじか。どうしよ。ニット帽かぶるか。


「あの、街にいい帽子職人の方はいらっしゃいませんか?俺はただ甘いものを食べたいだけなんで。」


「それならチック爺さんがいいだろ。素材さえ持っていけばいいもん作ってくれるぜ。」


 さっきとは違うほうのおにーさんがそう教えてくれる。なら…


「ここらへんで一番いい素材を落とす魔物を教えてください。とってきます。」


「それなら…ここから東に行ったところにワイバーンの住む山脈がある。案内しようか?俺らじゃ倒せないが魔王様ならいけるだろう。」


 ふうん。なら…


「ちょっと行ってきますね。ここで待っててくださいね!お土産持ってきますから!」


 そう言い残して俺は地面を蹴った。だって街の方向がわかんないからね。案内してもらわなきゃ。












いやさ。地面を思いっきり蹴ったのはいいんだよ。走ろうと思っただけだからね?東のほうに向かってダンっ!てさ。でもね?いくら何でもさ…


「地面蹴っただけで空の上とかおかしいだろぉぉぉぉ!!!!」


 めっちゃもふもふしてくるおねーさんから一刻も早く抜け出すために勢いだけで跳んだけどね。いやおかしいよー。もう1分くらい空中移動してるよー。しかもアン置いてきちゃったっぽいし。


「お、山が見えてきた。アレかな?」


 3分ほど森の上を跳んでいると、前方に岩山が見えてきた。

うーん、このままだと山に突っ込む勢いなんだよなー。大丈夫かな。……いやいやいや、絶対ぶつかるよねこれ。てか結構な勢いだよね。やばくない?え、や、ちょ、とまれぇぇぇぇぇぇ!


―――ドゴォォォォォォォォ!!


「っつー…ていっても痛くはない・・・か…でもやっぱ気分的に痛いよね。」


 結局勢いを殺せずに突っ込んでしまったわけだが…やはりというかなんというか、ダメージは0だった。魔王ぱねぇわ。なんで前魔王死んだんだかね。


「さて、じゃあワイバーンとやらを探しますかね」










 うん。すぐ見つかると思ってたんだ。ワイバーンっていうぐらいだからさ(謎)


「ワイバーンらしき影どころか魔物すらいねぇ!どうなってんだよこんちくしょう!」


 やみくもに歩き回ってワイバーンを探すことかれこれ15分。はぁ…やばいよ。そろそろ飽きてきたよ。やー、でもワイバーン素材の帽子とかかぶってみたいしなー。


 ……。ちょっとまってなんか目の前の岩ってか小山と目が合った気がする。てかめっちゃこっち見てる。

………。もしかして…


「あなたワイバーン?」


「グルガァァァァァァ!」


 小山はそう叫ぶと立ち上がり…立ち…あが…り…。ねぇ、なんで翼が生えてるの?まぁそれはいいや。でもさ、でもさ。


「いくらなんでもでかすぎだろぉぉぉぉぉがぁぁぁぁ!」


 ワイバーン(仮)、目測で20メートル程。

倒すにしてもなー…あんまり傷をつけると使うところ減っちゃうよな…あ、じゃあ


「首を一回転させれば死ぬよね。きっと」


 ふっふっふ…もう逃げられんよ、ワイバーン君。

先程とは打って変わっておびえたように震えるワイバーンを…



















 俺の名前はフロウ。今はアクテリアの街で冒険者をやっている。魔の森って呼ばれている街の北にある森の異変調査に訪れたら森の主の呼ばれているA+ランクの魔物が子供を襲っていたんだ!俺らにかなう相手じゃないことははっきりしていたんだが…仲間の一人が突っ走って行って…なぜか魔物は去っていったんだが、その子供に獣の耳が生えていてな。獣の耳を持つ種族はとっくに滅んでしまっているわけで…その子供が魔王なことは明白だったわけだ。で、だ。ワイバーンの素材がほしいって言って飛んで行ったっきりもう1時間が立とうとしているんだが…


「あ、おまたせです。ただ今戻りましたー。」


 お、ようやく戻ってきたみた…い……。


「その引きずっている大きな魔物は?どうした・・・の?」


 そう、魔王様はなぜかものすごく多きな魔物を引きずっていたんだ。


「え?いや、ワイバーンこれしかいなかったから。大きいほうがいいかなーって。あ、アン。しまっといてー。」


「はい。次は置いていったりしないでくださいね、マスター。」


 いやさらっと流してるけどワイバーンはそんなに大きい魔物じゃない。大きい個体でもせいぜい5メートルくらいなはずだ。ってことは…あの魔物はなんだ?ってうおっ!ちょっとした山のような魔物が消えた!すごいな…収納スキル持ちか…さすがは魔王様だな!


「え…あれはまさか…いや…でもそうだとしたら…」


 なんかもう一人のPTの男メンバー、ホウトが何やらぶつぶつ言っている。このPT唯一の魔法職なんだけど本が好きなのが玉に傷なんだよな…ま、とりあえず街に戻ることにするか。







 んー、戻ってきたのはいいんだけどみんながなんかびっくりしてるんだよな。なんかブツブツつぶやいてる人もいるしさ。


「じゃあ街に戻りましょうか。ここから2時間ほど歩いたところですので…疲れたら言ってくださいね、魔王様。おぶりますから。あ、俺はフロウって言います。よろしくお願いしますね、魔王様。」


 おー、なんかしっかりしてそうなおにーさんが挨拶してくれた。いい人だ。そしてイケメンだ。死すべし。


「うん。よろしくお願いね。俺は桃梨とうりっていうんだ。年はそっちのほうが高いんだから…敬語はやめてくれると嬉しいかな?」


「はい!わかり…わかったよ、よろしくな、トーリ。」


 ちっ、やっぱこいつイケメンだ。


「あ、私はアルマって言います。よろしくね、トーリちゃん。」


「私はね、ミレイっていうの。トーリちゃん。よろしく!」


「お、俺はホウトだ。よろしく、トーリ。」


 残る3人がそれぞれ自己紹介をしてくれる。


「はい、よろしくお願いします。」


「じゃあ、そろそろ街に向かいましょうか。」


 そうフロウが言い、俺たちは森を後にした。

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勇者になれなかったボッチ魔王の異世界スイーツ紀行 @kuroko7523

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