第2話 -くまー!-

 拝啓 美甘、優斗。元気にしていますか?勇者として転生してそちらも大変だと思います。でもね?目覚めて2時間で明らかに見た目やばそうなクマとエンカウントとかひどいと思うんだが!?



「ゔぉぉぉぉぉぉ!」


 もうさ、こっちガン見してよだれダラダラだもんね。これはもしかしてあれか?


「お肉がほしいのかくまさんよ?あげるぞ?お肉あげるから襲わんといてね?」


「いや、そんなわけないでしょう。どう考えても肉の切れ端より柔らかそうな子供食べますって。」


 落ち着いた様子でアンがつぶやく。知ってたよ!知ってたけどさぁ…


「くまぁぁぁ!」


 いやなんか雄たけびかわいくなってる!?!?

いやまぁ雄たけびはともかく、声を上げるとクマ(?)は腕を振り上げる。


「あ、やっべ!」


 そうだよね。普通ならわかるよね。何しにここにあらわれたか考えればすぐわかるよね。そう、クマは俺を『殺そう』としているのだ。

はは…情けない話だよな…思考はこんなに回るのに体は動かないもん……あぁ…短かったな…異世界生活…


――ぺそっ


「…………え?」


ぺそっぺそっ!ぱふんっ!ぽふぽふ。ぽむぽむ、ぺそんっ!


 クマの鬼のような連撃(笑)。いやすごい威力なんだと思うよ?地面とかさ?周りの木とかさ?ずが―!ばさー!言ってるし。


「さっき言いましたよね?マスターは魔王なんですって。勇者とか神以外からダメージなんてそうそう受けませんよ」


 あきれたような声でアンが言う。

あ、あー。つまりあれか?


「…俺の防御力高すぎて聞いてない感じ?」


「その通りです。」


 なるほどねぇ…んー、じゃあさ、もう

「無視でいっか。このクマ。とりあえず肉食おうぜ。」


「はい、そうしましたよ。」


 うんうん…んん?


「え、何お前もう食ったの?お前なにしてくれてんの?なんでお前だけ先に食べてんの?おいしかった?」


「はい。おいしかったですよ?ものすごい雑でしたけど素材に助けられましたねマスター。」


 ぐっ…俺の真価はあれだから。甘いものにこそ発揮されるから!


「それよりもマスター。そこのクマ子供がいるみたいですよ?お腹すかせてるみたいですよ?」


 先程からじっとクマのほうを見つめていたアンがそんなことを言う。


「え?どゆこと?推理でもしたの?名探偵アンなの?」


「いえ、普通にクマの言葉がわかるだけですけど」


 いやさアンさん。さらっと言ってるけどすごいことだからね?


「いやだって私これでも水の精霊ですし、最上位精霊ですし。クマの言葉くらいわかりますよ。」


「何その能力。超ほしいんだけど。」


 まぁでもくれねぇんだろうな。くれたらもらうけど。


「え、あ、はい。いいですよ。えーっと、んーっと、はい。どうぞ。」


 あぁ、そんなことですか。と言わんばかりあっさりとアンがそう言う。

いやお前それそこそこすごいことだからね?てかなんも変わった気しないしさ。


「いやね?ほんとマジさ。冒険者がここらの獲物狩りつくしちゃったせいでさ、うちら超迷惑してんの。そのお肉くれたら森の外まで案内してあげるからさ、人間の街のさ、冒険者の出てくるとこ行ってさ、やめさせてくんね?」


 …………。いやさ。大阪のおばちゃんみたいなノリなんだけど。どうしよう。


「えっと、とりあえずお腹がすいてるんですか?クマさん。」


「あ、うん。そなのそなの。ウチってか子供たちがねー。ここら辺に獲物いなくて肉を暫く食べれてないんよ。だからその肉をよこせっていうかくれるとありがたいんだけどなー。」


 …コイツ…。うぜぇ!

でもさ、クマの子どもってさ、多分かわいいよね。もふもふしてるよね。もふりたいよね。


「わかりました。協力しましょう。はい、お肉どうぞ―(ニコニコ)」


「おー、お前はいい人間みたいだな。まだ子どもなのに言い育てられ方してるんだな~。」


 クマは肉を受け取りながらそう言った。いやー、思ってたよりもステーキを両手で挟むように持ってるクマってシュールだよね。


「じゃあ森の外まで案内するわ。さ、こっちだよ。ついておいで。てか肩にお乗り。」


 クマさんがそんなことを言う。あれだよね。当然よじ登るよね


「あー、やばい。めっちゃもふもふ。でもさ、すげぇ上りにくい。一回降りるわ。」


 一度降りて、再度もふもふにダイブしようとしたとき―――


「その子供から離れろ化け物―――!」


 という叫び声をあげながらいかにも冒険者風な格好をした女の子がクマかーさんに斬りかかった。

え、まってクマさん大丈夫なの?なんかふつうに剣でズバッ!って切られてたけど。


「さ、行こうか。」


「え、待ってクマさん。痛くないの?剣で、ズバって、されてたやん?」


「ふんっ。あんなやわな攻撃じゃこの毛は通らんよ。あー、でもそうか。お前もうそこの冒険者に街まで案内してもらえよ。私の爪一枚上げるからさ。お守りにしときなさい。うんそれがいいそれがいい。じゃあそういうことでばいばいっ」


 そう言い残すとくまさんはさっさと森の奥に消えていってしまった。俺の手元に自分の爪を残して。

いや普通に引っこ抜いてたけどさ。若干涙目だったよね。まぁ…大事にするよ。ちょっと血が付いてるけど。普通にナイフくらいの大きさあるけど。


「え、えっと、ありがとうございました?」


「うん!私は冒険者だからね!」


 と、いい笑顔で冒険者のお姉さん(?)が答える。が


「アルマァァァァァ!お前はァァァ!また!一人で!突っ走って!もうちょっとで死ぬところだったじゃねぇか!」


「そうですよアルマ!私たちは4人で1PTなんですからね!」


「そうだぞ!そもそもなんで寄りにもよってこの森の主に向かって…俺らがどんだけ心配だったかわかるか!?」


 そういいながら3人の冒険者が登場する。あ、この人の仲間か。


「先程、この方にお世話になりました桃梨、と申します。」


「「「………。」」」


 3人の冒険者は唖然とした顔で桃梨のことを見つめる。え、おれなんかした?男二人は単純に驚いてるっていう感じなんだけど。女の人のほうは俺だね、なんだろう…えっと…


「か、か、かわいぃぃぃぃぃぃ!」


「「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」」


 あとから来たほうの女の人が発したその言葉に思わず4人の声が重なる。いや待ってちょっと待って!ぎゅってしないで!わちゃわちゃしないで!耳がくすぐったい!ん?耳?


「だって!だって!この!ケモ耳!たまらないじゃん!もふもふしたくなるじゃん!」


 もうたまらないっ!という風に言う。ん?ちょっと待って。

え、え、え、?ケモ耳?耳?



 そして俺は見てしまう。いつの間にか足元の近くに小川が流れているのを。そして…その中に映っている黒い髪で、そこそこ整った顔立ちの…獣の耳が生えているその姿を。


 美甘、優斗。俺は勇者でも人間じゃなくて魔王だったうえにボッチだったよ。その上…ケモ耳が生えていたよ。 

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