ぼす

SEDESU

ぼす

 小川のほとりに停車した動物の形をしているバス。そこから飛び出した二つの影は、少し飛び跳ね体をほぐすと倒木に背をあずけて座り込む。

 しばらく笑いながら話をするが、疲れていたのか帽子をかぶった娘はあっという間に夢の中。それを見た大きな耳の娘はいつものように怒り出す。

「う~っ。もっとお話したいのに~っ!」

 仕方なく立ち上がるとバスの運転席を覗き込むが、大きくため息をついて草むらに倒れこむ。

「ボスはお話してくれないし・・。」

 視界いっぱいに広がる無数の星。思わず息を飲むほど美しい光景なのだが、そんなものはずっと昔に見飽きている。

「うみゃみゃみゃ!」

 不満そうな声を挙げ両手で空を掻きむしる。そうして今度は草むらを転がり続けていたが、星の瞬く子守唄にいつしか眠りに落ちていた。


 静寂の闇が広がる大平原。

 先ほどボスと呼ばれた小動物のようなものが運転席から降りてくると、小川のほうへ歩き出した。

 おそらく上流で雨が降ったのだろう。いつもより川の流れは早く、そのせいで川岸の所々に地割れが発生している。

 その地割れの上にポンと飛びのると素早く元いた場所に飛び戻る。その瞬間に崩れ落ちる緩んだ地面。この作業を何度も何度も繰り返し、近くの川岸に地割れはなくなった。

 その無機質な表情からは何も伺えないが、なんとなく満足した様子で今度は下流に向かって歩き出す。


 少し進むと闇の中に小さな青い球体が浮かんで見えた。まるで地面の上を滑るようにバスのほうへ向かっている。

 すかさず進路を塞ぐと体当たり。ひるんだところで一回転。パシリと尻尾で川に叩き落した。

 球体は流れに飲まれ消えていく。


 しかし次の瞬間、草むらから先ほどよりもかなり大きな球体が飛び出した。やはりこれもバスのほうへ向かっている。

 先ほどと同様に体当たりするも今度はこちらが弾き返される。大きく宙を舞い転がるが、すぐさま立ち上がり体当たりを繰り返す。

 だが一向に球体は、ひるむどころか速度さえ落とさない。それでも何度でも、泥だらけになってでも立ち向かう。

 いよいよ草葉の向こうにバスの屋根が見えてきた。そこはこの青い球体の目的が眠っている場所。しかし今の自分にできることはこれしかない。

 再び立ち上がると全力で突進する。だが意に反してその足元はおぼつかない。それを待っていたかのように球体から伸びた触手が足を捕らえると、次の瞬間には円を描いて空中へ。


「うみゃみゃみゃ!」

 いよいよダメかと思われたとき突然聴きなれた声が響き、そのしなやかな身体からは想像もつかない鋭いツメが球体の上部を割いた。小さなキューブ状になり砕け散る球体。

 そのツメの持ち主は音もなく草むらに着地すると、ゆっくりと振り返り人懐っこい大きな口を開いた。

「ボス。私が夜行性でよかったね!」

 しかしそれは相変わらずの無表情。スタスタとバスに向かって歩き出す。

「もう~っ。せっかく助けてあげたのに~!」

 その後ろで文句を言うも、まんざらでもない様子の娘。手を頭の後ろで組みごきげん顔でついていく。


 再び平原に静寂が戻った。でも今は東の空が白く染まり、もうそこに闇はなかった。

 バスの近くでスヤスヤと眠っている帽子の娘を確認すると一拍おいて、それは決して誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。

「サーバル、アリガトウ。」と。

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