第3話

砂浜の上をたった二人だけで歩くのも奇妙だ。

太陽が遠くに顔を出していた。

熱光線が雲に交わらず届くみたいで、やけに不安な彼と彼女が並んで歩いている。

彼の瞳には緊張が感じられる。

口元が固く閉ざされている。

彼女の瞳はやけに穏やかだ。

彼は一生懸命先へ歩こうとする。

彼は女の子の隣を歩くのが不安なのだ。

彼女は彼の気持ちを感じつつも心の中で

「がんばれ」と言っていた。

彼は慎重に一歩一歩歩を進めていた。

そしてぱっと振り向いた瞬間彼が見たのは悪魔の顔をした彼女だった。

「どうしてそんな顔をしているの?」

「あなたを殺しに来たんです」

「うわああああああああああああああああああああああああああああ」

彼はあまりの恐怖にその場から逃げ出した。

彼が砂浜から遠ざかるとふとすぐ横に彼女がいる。

「どうして私から逃げるの?」

「だってお前は悪魔だろう。俺を殺そうとしたんだろう」

「私が悪魔であなたを殺すのなら私のことはもう好きじゃないの?」

「怖い。怖い。怖いんだ」

「うそ。うそ。うそ」

「うそじゃない。うそじゃない。うそじゃない」

彼はポケットの中の婚約指輪を遠くへ投げようとした。

「待って!」

彼女が叫んだ。

彼女はふいに海の方を見た。

大きな波がこちらへとやってくる。

まるで津波のように地球の巨大な大きさを示すように限りない水の粒が押し寄せる。

「私のこともう嫌い?」

その目には涙が浮かんでいた。

「嫌いじゃない! 怖いんだ」

太陽が沈んだ時二人はキスをしていた。結婚指輪が彼女の指にはめてあった。

彼が唇を放すと海が遠くからやってくる。もう真っ黒な海だ。

空はついに明るさを失った。

巨大な不気味な海へともう変わってしまった。

もう近くへ行くのすら恐ろしい。

「助けてください」

彼は涙交じりに叫んだ。

「大丈夫だよ」

彼女は優しく彼に言った。

彼は性の喜びに満たされてこの後ホテルへ行くのが唯一の希望だと思った。

二人で並んで海沿いを歩くが彼の胸には彼女への思いと不安が常に付きまとっていた。

昼間が終わりを告げ完全な夜がやってきた。

どうしてかこんな時に限って車の音や人の声が恋しい。

彼と彼女は並んで歩き、そして彼はあの時見た光景をもう一度思い出した。

あんなにも青く透き通った海が夜になるとこんなにも化け物みたいに怖いと。

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