⑪表向きでは切れたと言えど
「総合優勝チームはっ……デロデロデロ……1年3組と2年1組合同チームっ!!!」
体育館のステージ上、球技大会実行委員の口真似ドラムロールから発表された優勝チームは驚きの結果だった。
「ウォオオオオオ!!!」
統計結果を固唾を飲んで見守っていた俺たちは結果を聞いて地響きに似た歓声からの拍手、足踏みでとんだお祭り騒ぎだ。体育館揺れるっつーの! いやでもまじすげぇ!
「やったー!!!」「合格発表より嬉しいぜ!!」
え、それはどうなの? と思ったが確かに嬉しいのは事実だ。正直バスケ負けたときはもうダメだって思ったもんな。
同じチームになった1年、2年と、団子になって勝利を喜びあう。いいねいいね、青春だね!
「優勝賞品についてはまた別途連絡しまーす!」
実行委員の言葉にまた体育館内が沸き立つが「なぁ、まじで船上パーティーご招待してくれるのかな?」中尾はイマイチ信用していないようだ。確かにわからんでもない。現実味ないよな。
「いまさらあれは嘘でしたーはないと思うけどなぁ。まぁ、俺はどっちでもいいや。商品目当てだったわりには楽しかったし」
「そうだな。楽しかった」
中尾は俺の言葉に納得したようにうなずき、それから腕時計に目を落とす。
「打ち上げは7時かららしいけど、行くだろ?」
「打ち上げ?」
「おいおい、寺島のメール見てないのか? あいつんちチェーンの焼き鳥屋やってて、激安で貸切にしてくれるんだってさ」
「うおお、マジか!」
委員長の実家が焼き鳥屋とは知らなかった。
「行く行く。絶対行く」
「じゃあいったん帰ってから着替えて、10分前に商店街集合な」
「了解」
大きくうなずいてから体育館の時計を見上げた。今現在4時半だ。とりあえず帰る前に芥川のところに顔を出すか……。
教室に戻ってまた大騒ぎして、なんとか国語準備室に顔を出した頃には5時を回っていた。廊下に明かりがないせいか、それとも日当たりのせいか、こっちの棟は5時を過ぎると完全に陽が落ちて夕方って感じだ。
「芥川いるか?」
一応ノックしてドアを開けたその瞬間、中から誰かが飛び出してきた。
「うわっ!?」
完全に油断していたせいで胸のあたりにドシンと体当たられて豪快に尻餅をついてしまった。なに、なんだ、泥棒!?
顔を上げるとバタバタと廊下を走る音。後ろ姿のシルエットは芥川……なら逃げないだろ! 怪しいやつ、泥棒か! 慌てて飛び起きて後を追いかける。
「待てぇ!!!」
けれど人影はあっという間に校舎を飛び出し見えなくなってしまった。飛び出した先はグラウンドの横の校門へと続く道で、帰宅途中生徒でいっぱいだ。
「なぁ、今変な奴走ってこなかったか!?」
たまたまそこで談笑していたクラスメイトを捕まえて問いかけると「変な奴? さぁ……」と首を傾げられた。
そりゃそうだよな。誰かが走ってたからって変だとか思わねぇよなぁ……。
ため息をつきつつ国語準備室に戻る。と、芥川が開け放たれたドアの横の壁に寄りかかるように立っていた。
「部屋が荒らされてる」
言われて中を覗き込むと確かに散らかっている。書架から本が床に落とされ、足の踏み場もない悲惨な有様だ。
「すまん、逃げられた」
「どんな奴だった?」
「俺が部屋の中に声をかけてドアを開けようとしたら、中から飛び出してきた。最初から突き飛ばす気で体当たりされたのかって思うくらいめっちゃきれいにすっ転んだ。男だった……と思うけど顔も見てない……」
それだけかよ! って感じだよなぁ。ほんと我ながら役立たずすぎ。これは蹴られてもしゃあないなと内心覚悟を決めていたら、芥川は軽く顎のあたりを撫でながら目を細めるだけだ。なんだどうした。
「芥川、泥棒なら警察に届けたほうがいいんじゃないのか?」
「なんのために」
「はい?」
「ここに取られるような何かがあると思うか?」
「――ないな。何にもねぇ、ゴミしかねぇわ」
芥川は次から次に散らかしまくるけど常日頃掃除をしている俺だ。ここには価値のあるものは何にもないって知ってる。
「うむ……」
芥川は眉根を寄せ珍しく苦悩に満ちた表情のままだ。
「まさか……いや、わからないな。不確定要素が多すぎる」
「うん?」
「お前はもういいよ。帰りな」
芥川はフッと息を吐きバタンとドアを閉めると、それからスタスタと廊下を歩き始める。
「どこ行くんだよ」
「家に帰る」
「あ、そう……」
警察に届けなくていいのか? いや、何かを取られたわけでもないならいいのか? そもそも鍵すらかけてねぇし、この部屋。取られて困るものなんか本当に何もない。まったくもってわけのわからないことだらけだぜ。
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