⑤表向きでは切れたと言えど
そして球技大会。天気は上々、ペンキでさっと塗ったような青空と白い雲の絶好の体育日和だ。まだ開会式には時間があるが、グラウンドにはほとんどの生徒と教師が集まっていた。俺たち1年3組と2年1組の合同チームは、日野特製の鮮やかなオレンジ色のハチマキが配られる。
絆創膏の上に巻くと隠れてちょうどいいな、これ。
「あっくん先生の分もあるんだよー巻いてあげる!」
日野がはしゃいだ様子で、ぼーっと眠そうに立っていたジャージ姿の芥川の背後に回りハチマキを巻きつけていた。されるがままだ。てか、あいつ別に俺たちのチームってわけでもないのになんか馴染んでるな……。そして愛玩動物的扱いとはいえモテモテだ。人は見た目が9割ってマジだな。凄まじい格差社会だぜまったく。
「ツヅリ、今日は頼んだでぇ!」
ぼーっと女子に取り囲まれている芥川を眺めていると、背後からバシーッと背中を叩かれる。
「うおっ……!」
よろめきながら振り返るとお祭り男、林が立っていた。
「体育館でいきなりバスケあるからな。で、昼からバレーや」
「わかった」
「グラウンドは一発目野球みたいだ」
中尾がタイムテーブルを持って近づいてくる。
「相手チームは野球部固まってるんだ。もしかしたらすぐ負けるかも。そしたらバスケの応援に行くよ」
何しろ球技大会っつたって全部で3チームしか無くて、競技によっちゃトーナメント戦だから種目によってはすぐ暇になりそうらしい。
「コラァ、中尾ァ! 試合開始前に敗北を予定するとは何事やァ!」
「あははっ、ゴメンゴメン!」
変な巻き舌とイントネーションの林が中尾に飛びかかってわちゃわちゃし始める。そのうちなんかわけわからんけど俺も俺もみたいにクラスメイトが集まってきて、団子になっての大騒ぎだ。
結局寺島が解散させるまで騒ぎが続き、なぜか俺まで叱られてしまった……。理不尽すぎる。まぁとにかくそんなこんなで、校長先生の挨拶からの校歌斉唱、準備体操に選手宣誓があり、十月学園の第二回春の球技大会が始まったのだった。
第一試合を勝利で終え体育館の端でメンバーと一緒に休憩していると、野球であっさり負けたらしい中尾や林を含めたクラスメイトがわあわあ集まってきてまたバシバシ叩かれてしまった。
「ツヅリ、大活躍だったじゃん!」
活躍したといえるかはわからんが、確かにボールはやたら回ってきて数打ちゃ当たる方式で得点につながった感はある。
「やっぱデカイってすげぇアドバンテージあるなぁ」
「かるーくジャンプしただけに見えるけどダンクシュートできるんだな!」
「十月学園のリバウンド王やな!?」
「お前リリーホールからローレルホールに鞍替えしろよー! スイーツクラブって宝の持ち腐れ感ハンパないぞ?」
「リバウンド取ってねぇよ。あとスイーツ舐めんな」
なんのかんのと面白がって言ってくるクラスメイトをかわしスポーツドリンクを飲んで人心地つける。タオルで汗を拭いてから脱いでいたジャージの上着を肩に乗せた。
「ところでほかの競技は?」
「野球は惨敗だ。コールド負け」
中尾が肩をすくめる。
「その代わり、卓球団体戦は勝ったみたいだ。あとテニスの女子トーナメントは加藤さんが勝ち上がってるよ」
「おお加藤先輩が! こりゃ応援に行かなきゃだな」
張り切ってそう答えると中尾がかすかに目を細め意地の悪そうな表情を作る。
「前から思ってたけどツヅリ加藤先輩によく肩入れするよな。餌付けされたのか?」
「ちっ、違うって、俺はあくまでもおすそ分けで加藤先輩にはちゃんと恋人がいるっつーの!」
ここを誤解されたら加藤先輩に申し訳ないので必死に否定してしまったのだが、また俺の慌てっぷりが面白かったのか全員で笑うし! やーい、恥ずかしがりっ子って!!! 普通照れるだろ! 都会っ子は進んでるって言いたいのかよチクショー!
「よしよし、じゃあ昼メシ食いに行くぜー」
「うぇーい」
男子の集合でダラダラと体育館を出て学食へと向かう。俺もその後をついて歩いていたのだが……。ふと視線の端、ローレルホールへと入っていく女子生徒に目が止まる。ふわふわの長い三つ編み……内田先輩だ! ハンカチ返すチャンス!
「悪りぃ、先行っててくれ、すぐ追いつくから!」
いつでも返せるようジャージの上着のポケットに入れておいたんだ。
先輩を追いかけて普段は滅多に足を踏み入れないローレルホールの階段を駆け上る。そして、一階と二階の間の踊り場に差し掛かったところで――。
「きゃああああああーーー!!!」
頭上から、高い、女の人の悲鳴が聞こえてきたんだ。まさに絹を裂くような高い声。なになんだ今の! 今のは歓声でもなんでもなく女子の悲鳴だったよな!? でもなんで悲鳴?
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