第12話 運送は鬱憤も運ぶ3

 そんな話を同僚として、一か月後。武久に転機が訪れた。

「……家族と相談し明日にでも返事します」

 としか、答えられなかった。


 帰り際、妻に「大事な話がある」そう告げると、電話越しで慌てふためいていた。

『事故? 物品壊して買い取り? それとも解雇?』

 心配してくれるのはありがたいが、矢継ぎ早にそんなことを言われても困るのだが。

「帰ったら話すよ」



 神妙な面持ちで妻は帰りを待っていた。

「まず、どれくらいの期間か分からないけど、出向になった」

 同じ営業所内だが、出勤時間がかなり変わる部署だ。だから妻への相談は欠かせないと思ったのだが。

「えっと、先々月に取得した免許って……」

 会社命令で取った、運搬に関わる免許。会社持ちとはいえ、大変だったのだ。

「使わんよ」

「どーするの?」

「さぁ? それは会社の考えることだし」

 真っ先に気にするのがそこってどうなの、と思わなくもないが。

「とりあえず、夜出勤になるから、深夜手当とかが付く分給料は若干上がる。だけど、きつそう」

「どーするの?」

「大丈夫っていうなら、受けるけど」

 子供の時間帯と見事にずれてしまうのが難点だ。

「大丈夫でしょう。そこまで小さくないし」

 あっさりと妻は言い放った。

「取りあえずね、そのあたりは仕方ないと思うんだ。父も朝四時出勤とかよくあったし」

 そして、三日後からの深夜勤務が始まった。


 子供が騒いで時折起きてしまうのは、仕方ない。仕方ないのだが、妻が怒る声の方がきついとは、これ如何にといったところだ。


 休みの日に買い物に付き合う。これは以前と変わらない。昼夜逆転し、休みの日も気づくと寝ている。

 やりたいことはあるのに、なかなか出来ないのがもどかしい。


 そして、以前は必要なかった小物が増え、出費が一時的に増えた。


 以前ゲームをしていた同僚とは時間が合わない。帰りがけに向こうが休憩を取っていたりすれば、少し話す程度。

 しばらくすると、同僚が武久が以前取得した免許のために講習を受けに行っていた。

「ご苦労さんっす」

「ねみぃ」

「うっす」

 どうしても受講中は眠くなってしまう。武久もよく分かる。


 出向して半年。「戻っていいよ」という言葉は聞けない。いい加減戻りたい。

「給料下がるけど、昼勤務。給料少しいいけど、夜勤務」

 妻が歌うように言う。

「難しいところだよなぁ」

 武久としてはそう返すしかない。



 それから一年後。またしてもいきなりの辞令だった。

「戻れる」

「おめでとう?」

「何で疑問形?」

「微妙そうな顔していたから」

「うん。一週間しないうちには戻れるんだけどね、元いた部署でも急に言われたらしくて、大変みたいで」

「……それって」

 直属の上司も「もっと早く言ってもらえれば」とブツブツ言っていた。

 今までやったことのないルートをまた回ることになる。


 今回どれくらい急だったかと言われれば、出向先に「来月の休みの希望出してください」と言われた一週間後の話という時点でお察しだ。

「『なんかあったらまた手伝ってくださいね』って言われたけどさ……」

 出来うることならご免こうむりたい。

「言ってもらえるだけありがたいじゃん」

「まぁね」

 どうして他人ひとのことになるとポジティブになれるのか。斜め四十五度後ろ向きな妻は、そう返してきた。

「今の部署でもさ、夜間手当がつく仕事の方がいいかって聞かれた」

「?」

「『一、二か月やってみてきつかったら言います』って答えてきた」

「お任せする」


 会社と顧客と荷物に振り回される職種、運送業。

 体力勝負のこの仕事、いつまで続けられるのかと、武久は思った。

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お仕事? お仕事!! 神無 乃愛 @Noa-Kannna

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