第8話 兼業農家の憂鬱4

 兼業農家とはいえ、最近セミリタイアした師井の両親は、ある程度時間がある。


 それゆえ、二人で出かけたり、孫たちを連れて出かけたりもしている。

「昔、子供会で何度か出かけた記憶しかないわ」

「そらそうでしょうよ。ジジババも生きてたし。農作業しないと文句言われたし」

 母親が当たり前のように言う。

 そう、師井の父方の祖母にあたる人間は、そらもうきつい性格だった。自分は家にいるのに、会社員である母親にきつく当たった。師井並みに畑仕事もしなかったんじゃなかったかと思う。だからといって家事をやるわけでなし。それも母親の仕事で、祖母は口を出すだけだった。


 朝起きて、ご飯用意して、師井たちを起こして。仕事に行って、帰ってきたら時間があれば農作業、そして夕飯の支度。師井も中学に入ってから、家事とはとんと疎遠になった。逆に母親は休む暇もなかったはずである。

「畑に来ないほういいわよ。うるさいだけだから」

 手は出さないが、口を出すという典型的な人間だった。


 現在、果樹に関しては母親はほとんど手だししていないらしい。こだわりが強い偏屈者の父親の好きにさせていると言っているが、本音は手伝ったほうが色々面倒だからだという。収穫は手伝っているが。

「楽になったのは、田んぼをやらなくなったからというのもあるわね」

「ほうほう」

 小学生までは家族総出だったような気がする。

 

 それもそのはず、師井宅にはコンバインなどというものはなく、ただの稲刈り機のみだった。稲を刈り、杭をたててそこに刈り取った稲をかける。そうやって乾燥させていく。力のない師井は「戦力外」と言われ、昼ご飯の買い出しやら、晩御飯の支度がメインだった。田んぼではイナゴを追いかけていただけだ。

「でさ、詳しく知らないんだけど、どうして田んぼ辞めたの?」

 手持ちの田んぼがあったはずである。

「元々あった田んぼは減反政策で果樹園に代わった。さすがに兼業じゃ世話出来んから貸した」

 父親が話に混ざってきて。

「あれ? じゃあ自転車で行ってたあそこは?」

「減反になった時に借りた。不作の時に返した」

「何で?」

「ちょうど機械壊れたのもあったが、あの不作の時にバーさんがどこから聞いてきたのか、海外米を買ってきてな。作っているのに買ってきて頭に来て辞めた」

 ……ばーさん、またあんたか。師井はため息をつくとともに、偏屈者な親父が辞めた理由が分かり呆れてしまった。

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