第9話 兼業農家の憂鬱5
仕事終わり、同僚の嘉内がほくほくとなにやら抱えていた。聞けば焼き芋だという。女性の大半が好きだろうと思われる焼き芋。それにしても数が多すぎである。
「おまけで貰っちゃってさぁ。食べきれない分は明日スイートポテトにして持ってくるから」
嬉しそうに言う嘉内は、どうやらお菓子作りが電話のストレス発散のようである。
「好きだねぇ」
「甘味好きだしね。それに作ること自体が楽しいし。それに専業主婦だった母がよく作ってくれてたし」
「羨ましいこって」
思わず師井の口から本音が出た。
「うちの場合はねぇ、エンゲル係数高かったってのもあると思うよ」
「よく分からん。焼き芋はよく畑でやったけど」
「……はぃ?」
嘉内が目を見開いて驚いていた。
「いやさ。うちの婆さんの変なこだわりで『豆ぶち』ってのをやってたんだわ」
「……ナニソレ」
やっぱり知らないか。師井の年代で「豆ぶち」を知っているもののほうが少ない。
「乾燥させた豆を殻から取り出すのさ。その時に棒とかで豆を打って鞘から取り出すから『豆ぶち』っていうのさ」
「分からん」
「だろね。で、豆の鞘とか茎とかが乾燥して畑に残るわけ。それを肥料にするっていう事も兼ねるからだろうけど、風のない日に燃やすのさ。で、その燃やした中にアルミホイルに包んだ芋を放り込む、と」
「できたてホカホカの焼き芋が出来るわけですね、分かります」
そこだけは分かったらしい。
「ちなみにな、前の職場でも知ってる人少なかったから気にしないよ」
「豆ぶち」など知っているほうが少数派だろう。
「そうなの?」
「おうよ。親世代でも知らん人は知らんかった。挙句『それ私が子供のころばーちゃんがやってた』って言われたぞ」
「さよか」
嘉内の顔があきれ顔になっていた。
「あ、うちは珍しいからね。多分ご近所でもやってなかったんじゃないかと思われ」
「そんな言い訳要らんわ」
袋から焼き芋を一つ取り出しながら嘉内が突っ込みを入れてきた。
「いや。未だやってるかって言われると謎だし」
「いいんじゃね? ほい、面白い話聞けたし、一個どうぞ」
「サンキュ」
もくもくと一つ食べ終わると満腹になり、ご飯など要らないように感じた。
懐かしい話を思い出しつつ、師井は帰路についた。
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