第7話 兼業農家の憂鬱3

 幼いころ、父親は青い李を出荷用に梱包していたはずである。

 一番上だけ赤い李で。


 それが出荷用の果物を梱包している記憶の最初だ。


 気が付いたら、他の家よりも遅い時期に出荷するものが増え、こだわるようになっていた。


「それね。とある親戚の言葉なのよ」

 実家に帰った時、母親に聞いたらそんな答えが返ってきた。


 曰く、父は己の弟の奥さんの実家に、毎年果物を送っていたという。お中元やらその他のものとして。

 ある年、その家の一つからこんなことを言われたらしい「とても食べれるものじゃない」と。父親は頭を殴られたような衝撃を受け、作り方を根本から見直すことにしたらしい。

 なんと単純な、そう思ったが、父親からしてみれば「食べられない」という言葉がショックだったのだろう。

 届いてから時間を置く、なんてある意味送り主に失礼な話だ。

 すぐ食べられるものを。そして美味しいものを。それが父親のこだわりに火をつけたのだろう。まったくもって単純な親である。

 今ではリピーターの多い農家になったのだから、それでよしとしているらしい。


「それはそうと。あたしは昔畑連れて行ってもらえんかったよね。何故に姪っ子甥っ子は入り浸っているのかな?」

 そう、父親から「お前は邪魔」と言われ、師井はほとんど畑に行かなかった。行ったとしても、近場の野菜畑くらいなものである。

「孫は別格。そしてそれはそれ、これはこれ」

「最初が本音だろ」

 悪びれもせずに言う父親に、師井はため息をついた。

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