第3話 面倒ごとはある日突然に

 今日も今日とて、電話からクレームを受ける日々である。

 嘉内の心理を表すなら「アナログ」さんからの電話が恋しいくらいだ。「アナログ」の電話は江井や数人を除き、すぐ終わる。「アナログ」の嫌味が可愛いと思えるようなクレームを受ければ、そうなってしまう。

「……はぁ」

「何でさっさと電話でないの?」

 後ろでイライラしたようにリーダーが言う。先ほどの問い合わせがよほど嫌だったらしい。

「先ほどの電話のお客様へ連絡が先です」

 イライラしたリーダーに、嘉内はそう答えた。すぐさまリーダーが嫌な顔をしていなくなった。


 その問い合わせを受けたのは、もちろん嘉内だ。

 何故引いたし。

 それが嘉内の正直な意見だ。


 厄介な問い合わせだった。三つある品物のうち、一つを廃棄し、二つにまとめる。その際、三つの情報を二つにまとめる、というものだった。

 本来ならコールセンターで受ける内容ではない。

 連絡部署に回すのが道理であり、嘉内もそうしようとした。連絡部署で拒否されなければ。連絡部署曰く、「うちでするほどのものじゃないよね(意訳)」という事だったのだ。


 リーダーに聞いても「連絡部署」としか言わないため、仕方なくその上のクラスの人間にも聞いた。たまたま詳しい人物に聞けたため、「この部署に問い合わせてみなよ」というありがたいお言葉をいただいて、かけた。……が、そこでまた問題が生じた。「うん。うちで工事まで担当するけど、電話対応はそちらでしてね(意訳)」と言われ、客との窓口が嘉内になった。

 客が大変物わかりのいい人で、嘉内の問いにも答えてくれ、挙句の果ては内容のFAXまで送ってくれた。ここまでしてもらえ、嘉内は泣きそうになる。

 関係部署にFAXを流す際にも使い(もちろん客に了承をもらった)、工事の予定日も嘉内がイントラネットで取得し、全部の工程が嘉内の手から離れたのは、一週間後のことだった。

 ……もちろん、その間嘉内は他の電話にも出ていた。頭が混乱しそうになるのを何とか堪え、やっとこの日がきたと喜んだ。


 その時にはリーダーの上役がほぼつきっきりで嘉内に内容を教えるという、とんでもない事態に発展していた。

「……終わりました」

「うん。お疲れ様」

 本来ここでする内容ではなかった。途中でそのことを上役に言うと「今更これ、誰かに引き継げる?」と言われ、嘉内も諦めた。そう、それくらい面倒な内容だったのである。

「滅多にない問い合わせだけど、次こういうの受けたら対処できるでしょ」

「ははは……」

 二度としたくない、その言葉を何とか飲み込んで、この件は終了したはずだった。


 リーダーが「なんで私に聞かないの?」と言ってくるまでは。


 いや、あんたに聞いたけど、二度目から逃げたよね? そう嘉内の言葉を代弁してくれたのは、同じグループの人だった。

「ってかさ、嘉内さんのほうがリーダーよりいろんなこと知ってるよね」

 お昼にそんなことを言われた。

 それはだね、私が趣味の赴くままに色々調べているのと、イレギュラーなものをよく引くからだよ。という言葉を嘉内は飲み込んだ。

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