迷宮自販機の生存者

ちびまるフォイ

お前、自販機見なかった?

もうどれだけ歩いただろう。

迷宮に閉じ込められてずっと歩き通していた。


「はぁ……出口なんてあるのかよ……」


壁は高くとても登れない。

持ち物は財布だけ。


どこをどう曲がったのかも思い出せない。

自分の精神をまともにするためにひとり言も増えてきた。


「おい! お前!」


自分以外の声を聴いて驚いた。

振り返ると、自分のようにボロボロの男が立っていた。


「お前も迷宮で迷ったのか?」


「うん。もう出口が見つからなくて諦めかけていた」


「それより自販機を見なかったか?」


「じ、自販機!?」


そんなものあるわけ……あった。


ふと見た道の先に自販機が置いてあった。

飲み物はもちろん、食べ物まで買えるタイプだ。ありがたい。


迷わず財布の金を使って食べ物と飲み物を買う。

いっきに体が回復した気がする。


「まさか自販機がこんなところにあるなんて。

 あんたものどがかわいていたのか?」


「いやちがう。これはヒントなんだ」


男は自販機の広告を指さした。



【この自販機は迷宮の出口につながるヒントです】



「出口への……ヒント!?」


「そうさ。俺はずっとこの自販機をたどってきた。

 自販機がある場所に向かえばきっと出口につくからな」


「俺もついていく!!」


1人でいるのが心細かったのもあるが、男と2人で迷宮自販機を探して歩いた。

歩いているとほかの迷子の人とも遭遇した。


「なんと! 自販機を探せば出口にいけるのかね!」

「私もついていくわ! 案内して!」


みな反応は同じで、俺たちはRPGのメンバーみたいにぞろぞろと歩いた。

5件目の自販機を見つけたところでついに最年長のおじいさんが座り込んだ。


「もうだめじゃ……ワシは疲れたよ」


「そうね、もうずっと歩き通しじゃない。本当に出口に近づいてるの?」


「間違いねぇよ!! 自販機をずっと探してきたじゃねぇか!!」


疲れからか男の口調も荒々しくなっている。


「とにかく今日はここで休みましょう、自販機から動くと食事もできないし」


「そうだね」


俺たちは座り込んで静かに眠り始めた。


 ・

 ・

 ・


「……ん」


うっすら目を開けると女の顔が近くにあって驚いた。


「わっ!?」


「しっ。大きな声出さないで、あいつが来る」


「あいつ?」


「あの男よ。見て」


女が指さした先には最年長が倒れていた。完全に血の気がない。


「し、死んでるの?」


「あの男が殺したのよ。私たちのお金が目当てなのよ。

 あいつは死体を隠す道を探して今はいないからすぐに逃げましょう」


「う、うん」


俺は立ち上がって女の誘導のもと迷宮へと進もうとした。

そのとき、後頭部に強い衝撃。


たまらず崩れるようにその場に倒れてしまった。


「ふふふ……男ってバカね……。女が無害な生き物だと思い込んでる」


「おま……え……」


頭はくらくらしてもう立ち上がることはできなかった。

ふたたび目を閉じて意識を手放した。


次に目を覚ました時には、女も近くに倒れて死んでいた。

首には強く締めあげられた手形が残ってる。


きっと男によって殺されたのだろう。


「財布……。ないか」


俺の財布はもちろん、女も最年長の財布もなかった。

最後に生き残った男は3人分の財布を持って自販機を探しにいったんだろう。

ポケットに1回分の小銭しかない。


「もう……ダメだ……」


死体の山の中、自販機のそばでうずくまるしかなかった。

飲み物も食べ物もなくなった今、ゆるやかな死を待つばかり。



コツコツコツ……。


足音が近づいてきた。

顔を上げると、大きなクーラーボックスを抱えた業者が来ていた。


業者は死体に目もくれず自販機に飲み物や食べ物を補充している。


「あっ……! まさかヒントって……!」



――この自販機は迷宮の出口につながるヒントです


この意味がやっとわかった。


自販機そのものに意味なんてなかった。

ここに補充にくる業者が出口に案内できる唯一の人だったんだ。


補充が終わった業者は無言で迷宮へと歩いていく。

俺はその背中を必死に追いかけた。



業者が来た先には迷宮の出口が待っていた。



出口にあった自販機で買ったジュースほど美味いものはない。

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