宇宙のバス

司馬仲

第1話

とおいとおい宇宙うちゅうのむこうの、そのむこう。

太陽系たいようけいよりも、アンドロメダよりも、もっともっとそとがわ。

きみたちのしらない、ったことのない銀河ぎんがのかなた。

そこには、おおきなほしやちいさなほし、いんせきやブラックホールがうかんでいる。

そして、そんなふうにいろんなものがたくさんあるなかにまぎれて、一台いちだいのバスがはしっているのです。

そう。それが宇宙うちゅうバスです。

ひかりのとどかないくら宇宙うちゅうにライトをてらし、バスはひとりではしっています。

宇宙うちゅうにはおとがありません。なんにもきこえません。

いんせきがぶつかるおとも、流れ星ながれぼしがかがやくおとも、ロケットのかけらがもえるおとも。

そして、宇宙うちゅうバスがはしおとも、きこえないのです。

だからだれも、このバスをしりません。みんな、みんな。

ちかくにすんでいる宇宙人うちゅうじんも、きみたち人間も。

でも、たしかに宇宙うちゅうバスははしっているのです。


そのバスには、のるための入り口いりぐちがありません。おりるための出口でぐちもありません。

ただおおきなまどがたくさんならんでいるだけ。

ふしぎなことにそのまどは、バスのそとからなかがみえないようになっています。

これではなかにどれくらいおきゃくさんがのっているのかわかりません。

どんなひとがうんてんしゅさんなのかもわかりません。

そもそもこの宇宙うちゅうにはバスていがありません。

だれも宇宙うちゅうバスののりかたをしらないのです。

けれども宇宙うちゅうバスは、きょうも宇宙うちゅうはしっています。

きっとあしたもあさっても、そのつぎも、バスははしるのでしょう。


……きみだけに、この宇宙うちゅうバスのヒミツをおしえてあげる。

じつは宇宙うちゅうバスにのれるのは、カラダをもたないひとだけなんです。

つまり、しんじゃったひと

カラダからぬけ精神せいしん

つまり、ココロ。

ココロだけになってはじめて、宇宙うちゅうバスにのれる。

カラダがないから、入り口いりぐちもいりません。カベからはいればいいんです。

そしてバスはたくさんのココロをのせて、ひろい宇宙うちゅうはしるのです。

たいくつな宇宙うちゅうでも、みんなでバスにのっていれば、たのしいきぶんです。

いろんないろほし宇宙うちゅうにすむウサギ。もやもやとキレイな星雲せいうん

バスのまどをとおしてみれば、そのけしきはとてもうつくしいのでしょう。


だれがどうして、どうやってつくったのか。だれもしらない宇宙うちゅうバス。

かみさまがつくったというウワサもあるけど、ほんとうかどうかはわかりません。

そんなこと、このひろい宇宙うちゅうではささいなぎもんです。

きみもいつか、宇宙うちゅうバスにのるがくるのでしょう。

だいじょうぶ。おかねなんていらない。

宇宙うちゅうでひつようなのはおかねでもカラダでもない。

ココロ。ひとつだけ。

だからきみがココロだけになったとき、きっと宇宙うちゅうバスがむかえにきます。

それまでのあいだ、ちょっとだけ、まっててね。

わすれちゃってもへいき。

宇宙うちゅうバスが、きみのことをぜったいにおぼえているから。

だから……だからもう、をあけて。

きっとそろそろ、きみのおかあさんがあさごはんをつくる。

宇宙うちゅうにはあさごはんがないから、いまのうちにたくさんたべておいてね。


それじゃあまたね。きっといつか、むかえにくよ――。

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宇宙のバス 司馬仲 @akira_akari

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