アイ・アム・エネミー

みど

第1話 日常

僕の名前は加滝カタキマオ。

いま僕は川辺の草むらに寝ころびながら空を眺めている。……寝ころんでいるというのは正しい表現ではなかったかもしれない。正しくは、倒れながら。


さっき殴られた右頬が痛い。幸い歯は無事なようだ。鉄の味がする。口の中が切れているのだろう。


僕は生まれたての小鹿のようにゆっくりと起き上がった。

右の脇腹、肋骨のあたりが痛い。これはヒビが入っているかも……

僕の上着はどこだろう。あたりを見渡すと、いじめっ子たちに奪われた学ランと鞄が、街路樹の高いところにかけられている……。


いじめっ子どもあいつらは加減ってものを知らない。

僕は、川の中に捨てられた僕の財布を拾い、中身を確認した。まただ。レンタルビデオ店の会員証、ネットカフェの会員証を除いて、一円玉と五円玉が1枚ずつ、10円玉が3枚入っているだけだ。ご丁寧に定期まで持っていきやがった。おかげで僕はここから4駅の道のりを歩いて帰らなきゃいけない。


今日は大好きな格闘ゲームのインターネット中継を生で見たいから、あいつらに見つからないように、ホームルームを途中で抜け出して足早に帰路についたのに。勇気を出して「先生トイレにいってきていいですか?」なんて、ウソをついて抜け出したのに。あいつらったらホームルームどころか学校をサボってるから、僕が早く帰ったところで、帰路が同じじゃ意味がなかった。駅で待ち伏せされてたみたいだ。これじゃ恥のかき損だよ。


とりあえず帰ろう。僕はグジュグジュになった財布をそのまま右ポケットに詰め込み、落ちていた枝で学ランと鞄を街路樹からおろした。……考えれば考えるほどあいつらが憎い。いつかあいつらに天罰が下ると思って我慢していたが、クラスメイトどころか先生たちも見てみるふり。僕の限界も近い。

ほぼ毎日あいつらにお金を取られているせいで、もう貯金も尽きたし、これ以上、母親の財布からお金を盗んだらいつかバレる。僕が3歳のころから女手ひとつで育ててくれている母親にだけは、可能な限り余計な心配をかけたくない。


今日のあいつらはいつもよりイラついていたみたいだ。たぶんこの前の期末テストの結果が悪くて、親に怒られたかなにかだろう。絶対にくだらない理由に決まってる。

いつもは定期は残していくのに。定期すら奪っていくんだから余程だ。


にしても、2駅ほどは歩いたと思うが、まだ家には着かない。

出来れば格闘ゲーム中継の決勝は生で見たい。今日も「ビースト有名プレイヤー」が決勝を盛り上げてくれるはずだ。


この商店街を抜ければ見慣れた通りに出るはずだけど、今日は急ぎたい。方角から見て、この商店街をまっすぐ抜けるより、あの小道を抜けた先に抜ければ、多少のショートカットになるはずだ。


僕は試合を見るために、右脇腹をかばいながら、商店街の小道を駆け抜けた。

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