第125話 後悔 2


「アレクシ。財布」


「財布がなぁに?」


萌の突然の呼びかけに対して、なんと恵一の後ろから声がした。眠さのカケラも感じさせない、普段通りの声だった。


「え……アレクシ起きてたの?」


「嫌だな寝てないよ。横になってただけ」


それじゃあ自分の先ほどまでの必死の呼びかけはなんだったんだ。


ため息を吐く恵一をよそに、アレクシは説明もなく差し出しされた萌の左手にポケットから取り出した折り畳み財布を乗せた。

眠そうに目をこすりながら言う。


「でも、何に使うの?」


黒革の年季が入って手に馴染んだ様子の財布を開くと、萌はお札の枚数を確かめた。

いつになく慌てた様子だった。

財布を持つ両手が小刻みに震えている。


「後で返す」


「……おい、萌。一体」


「今から出掛ける。急がないと。母さんはああ言うの苦手だから」


「だから何処に出かけるんだ?」

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