後悔

第124話 後悔 1









恵一はただ静かに、バスケ部のわりに日に焼けている萌の寝顔を見つめていた。

小麦色のさらりとした若い頬に、つっと幾筋いくすじかの涙が流れる。


それを見ると、心がざわつくのを感じた。

この涙には、どうも既視感きしかんがあるのだ。ほんの昨日、病院で見たばかりだった。

見慣れた自分の顔、そして萌の顔から、他人の涙が流れているようなこの違和感。



「萌…お前、ちゃんと休めよ」



伸ばした手に、デカくなっても可愛いおいっ子の髪の感触は無い。


この子は一体、眠らずに何を見ているのだろう。


可愛そうだがこのまま苦しそうな表情を見せるならば起こしてやらなければならない。


アレクシならば何かわかるかと恵一が振り返ると、白い男はベッドの下の方にうずくまって優雅に寝息を立てているところだった。


「おいおい……」


恵一が大声で呼びかけても起きる気配は無い。

仕方なく恵一は、もう一度萌を振り返った。


そのときだ。

萌のまつ毛が震えた。

むくりと起き上がり、頬の涙を拭おうともせずただ自分の手を見つめる。


そして、左手をわずかに伸ばして、何かを掴もうとする様な仕草を見せた。

そして言う。

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