第108話 市東 桂壱 3

星弐せいじ。お前、部活は?」


「今日はオフ。だから一緒に帰ろうぜ。どうせ同じ家に帰んだからさ」


星弐は歯を見せて笑った。

薄い、大きめの唇。

はっきりとした二重の大きな目。

真っ黒なそれは、いつも光を集めたみたいに濡れて輝いていた。

無駄の無い、美しくとがった輪郭。

中央にすっと通った鼻筋。

パーツは女性的かもしれないけれど、「可愛い」と言うのは似合わない。


「かっこいい〜」


-ほら……


女子達はとろけた声を出して飛び跳ねた。

さっきまで笑いものにして遊んでいた僕のことなんてもう、頭から消えている様だ。


バカみたいな黄色い声はもちろん当人にも聞こえているわけで、星弐は少し困った様に笑ってそちらへ頭を下げる。

その途端また、耳触りな高音が大きくなった。


「お前、余計な愛想あいそう振りまくなよ」


言いたかったことは思ったよりぼそぼそとした声で口から出た。

みっともないけど、面白い気分じゃなかった。


異性にちやほやされても、星弐は調子に乗らない。

かといって、彼女たちをクールぶって突っぱねるのでも無い。

いつだって星弐の対応は、見た目だけの男じゃ無いことを証明する。

だからいつもいつも、どんな相手でも、星弐はいつしか皆の一番になってしまうのだ。


小学校でも家の中でも。


そんな子が、そんな子だけが、ここ十年ほど僕の味方だった。


「今日は美術部に顔出すから一緒に帰れない」


気づいたら冷たく言い放っていた。

カバンを掴んで教室を出る。振り返らなくても「何アレやな感じ〜」と言う女子どもの声で、みんなが僕をどんな目で見ているかわかってしまった。


お前が弟で嬉しい。

でもお前さえ居なかったら、こんなに苦しく無いのかもしれない。

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