第103話 顔 5

アレクシの曇りのない真っ直ぐな瞳を見ていると、全てを見透かされているような気持ちになった。

いや……実際、その通りなのだろう。

反論してやろうと一瞬熱くなった心も、この目を見ると次の瞬間には冷めてしまった。


「はぁ、やめた。……やっぱり、萌とコミュニケーションとりづらいのバレてたんだ」


アレクシは少し馬鹿にする様に柔らかく鼻にかかる息を吐いた。


「ケイイチの気持ちなんて、力を使わなくてもわかるよ。今だってそんなに嫉妬いっぱいな目でこっち見てる癖に」


「え、嘘……」


「嘘ついて僕に利益ある? ケイイチは自分が思ってるよりもモエのこと好きだよね。もちろん、そう言う意味で・・・・・・・だけど……何でビックリしてるの?」


思考が停止する。

今、目の前の白っぽい美形の外国人は何と言ったのか……。


「いや……えぇっ?!」


そんな見下す様な目でこっちを見ないで欲しい。急な話にこっちはいっぱいいっぱいなんだから。


「はぁ。日本人は本当に君みたいな人が多い。理性が本音をみっちりフタしてそのうち本当の気持ちがわからなくなるんだよ。まあ、そこがいじらしくて愛おしいんだけどさ、好きな人にくらい心のまんま素直になりなよ」


「……いや、外国の人が積極的すぎるんだよ。それになんで俺、他人に自分の心の中の解説受けてるんだ?」


何だか余計なお節介に思えて若干イラっとする。


「大サービスだよ。反論ばかりしてないで感謝して欲しいな。僕はややこしくとっ散らかった君の心を整理して本心を教えてあげてるんだから」


「そう言われても俺は!この子の叔父さんだし!」


もし、仮に、万が一、億が一、自分が萌相手に邪な想いを抱いているとしたら、とてもじゃないが姉に顔向け出来ない。

それに萌だって自分を軽蔑するだろうと恵一は思うのだ。

顔を歪ませて離れていく萌を想像すると、絞られるように胸が痛む。


「ああそう」


アレクシは珍しく何処か不機嫌そうな様子で口をつぐんだ。


-俺に気があるような素振りを見せてた癖に、なんで萌との仲を取り持とうとするようなことを言うんだろ


色々気になったけれど、普通ならあり得ない形で知ることとなった己の本心に恵一はただ、戸惑うばかりだった。


「俺はただ、萌が可愛いだけなんだ」


誰にともない言い訳に、眠っているはずの萌の顔が苦しそうに歪んでいた。

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