第102話 顔 4

「アレクシ、どう言うこと?」

事情が飲み込めない恵一は怪訝な顔で尋ねた。


「言葉のままだよ。モエは自分が寝ている間にケイイチに何か起こるんじゃないか不安なんだよ。自分しか視えないから目を離したくないんだ」


「ね、モエちがう?」と聞いたアレクシに萌はバツの悪そうな顔でちらりと恵一を見上げた。

その視線は肯定の意味だと容易に想像できるものだった。そうなるともう、今夜アレクシが泊まることは決まった様なものだ。

その夜恵一は、散々渋った後気絶する様に眠ってしまった萌をアレクシと共に見守っていた。


仰向けに姿勢良く眠る萌の右脇に恵一が壁に背を預けて座り、左側にはベッドに腰掛ける様にしてアレクシがいる。

本当なら決して頑丈とは言えないパイプベッドに男三人で乗ったらベッドがきしみそうだが、悲しいことに自分はカウントに入らない。


恵一は相変わらず半透明な自分の手のひらを見つめた。

そして手のひらの向こうで、萌に抵抗されないのを良いことにその頭を撫でるアレクシを見つめた。


「萌の心の中は読めないんだろ? アレクシはどうしてわかったの?」


「モエのはわからなくても、ケイイチの記憶は視えるよ。毎朝、ここに沢山の本をつんで、しかも日に日に顔色が悪くなるモエの姿を視たら、ねぇ? わかるでしょ」


「……手厳しいね」


きっと、気付けなかった恵一への当てつけが含まれているのだろう。


今度はモエの髪を弄びはじめたアレクシを、恵一は複雑な思いで見つめた。

その場所は自分のものだと思うと、胸がちりっと痛む。


「違うでしょ? ケイイチ」


「え?」


「ケイイチは本当は気づいてた。でもモエのこと意識し過ぎるいつもの病気のせいで知らない内にフタしてるんだよ」


「は?」


-何言って……


「ケイイチはモエを心配してても、二人っきりで、対面で、モエと何かを言い争うのが怖いんだ。だからそうなりそうな話題を避けて、自分達の関係が変わらないように逃げてるんだよ。いつも」

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