第101話 顔 3

両手の指を組み合わせ、膝の上にひじをついてうつむいていた瀬口は静かに告げた。


「行方がわからない」


重苦しいため息が誰ともなく漏れる。


「それでこれからの話だが、ここから先は大人に任せて欲しい。明日、明後日は休日だから良いとしても、平日学校があるのに君らに方々探し廻らせるわけには行かない」


アレクシとめぐみはもっともらしく頷く。

けれど、萌たちからすれば「はい、そうですか」と引き下がる訳にはいかなかった。


「俺たちだって役に立つよ!こんなときに学校なんて行く気になれねえよ」


父親に食い下がるリョウマを見て、アレクシがニヤリと笑う。

今日も全身淡い色で統一しており、白いまつ毛は窓から射す陽光に透けていた。

どこか浮世離れした出で立ちには清浄さと透明感がある。

けれどアレクシはそんな見た目とは正反対の毒気たっぷりな声でリョウマをわらった。


「『何だか気の毒だ。桂壱って奴、友達居なかったのかなぁ。これだけ元クラスメイトに話を聞いても、何にもわからないなんて』」


「あ?」


「リョウマ。自分で答え出てるじゃないか。君がこれ以上調べても無駄だよ」


「警察は動かせないんですか? 母さんと瀬口さん達だけじゃ人手が足りない」


萌が尋ねる。


「捜索願が出ていない以上はね、どうしようもない」


「岡山が死んだ事件から星弐に繋げられませんか? 他殺も視野に入れてるってテレビで……」


瀬口は軽くため息を吐いた後、視たまま話せと顎でアレクシを促した。

同じ警察関係者と言えど部署が違えば捜査内容をそう易々と漏らすわけには行かない。

この点で交通課の瀬口は役に立てなかった。

そこでアレクシの出番だ。


「ハルト オカヤマ飛び降り事件のことだけど、あのアパルトマン実は隣のビルの窓から侵入できるんだ。非常階段へ飛び移ってね。

数ヶ月前にビルから最後のテナントが出て行っちゃった関係で今は廃ビル同然らしい。

当然、監視カメラも無い。

だから、外部からアパルトマンへの侵入は簡単だと警察は考えてるみたいだよ。

アパルトマンの方も非常扉の向こうは監視カメラの死角だしね。そのまま階段で屋上へ登ればいい。

自殺から他殺も視野に入れたのは住民の中に階段を登る足音を二人分聞いた人がいることを警察が知ったからだ。実際に姿を見た人はいない。

だから、この状態では星弐に繋がる理由がどこにも無い。二人を繋いだのはモエの夢だけだ」


「……うぅーん。難しいわね。アレクシに病院で見せてもらった映像の子は、実は『ケイイチ』じゃなくて……弟の星弐くんだったってことよね? ちょっと写真より若かったけど。で、あのとき聞こえた『ケイイチ』って名前は、本当はお兄さんの方の名前で……あぁ、ややこしい!結局、けーちゃんを連れて行っちゃったのは誰なの?!」


「『誰』っていうより『どっち』じゃないか? いずれにせよ星弐を探さないと……」


「萌くん。あれから夢は見ていないのかい?」


「はい」と、歯切れの悪い返事を返した萌には元気がない。恵一は心配になって萌の様子を伺った。

瀬口も気づいたようで慌ててフォローを入れる。


「ああ、ごめんね違うんだ。責めている訳じゃない。君の特別な力に無責任に頼るなんてことは絶対にないから」


「ねぇ、モエ。寝てないでしょ」


突然、アレクシが萌に尋ねた。

恵一が慌てて振り返ると、その瞬間、萌は目をそらすように下を向いた。


「萌?」


「君が眠る間、僕がケイイチを見ててあげるよ 」


嬉しそうな顔でアレクシが言う。


「それなら心配いらないでしょ? だから僕も泊めて?」

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