覆水盆に返らず

第79話 覆水盆に返らず 1

***





「それにしても二人とも背が高いよね」


あれから直ぐに、萌は京平に連絡をとった。

てっきり学校にいると思った京平は、登校しない萌を心配して早々に学校を切り上げたらしい。電話すると、リョウマを伴って萌の家を訪ねてきた。


念のため恵一の捜索願を提出するためにめぐみと瀬口は一旦、警察署に向かったが、萌、恵一、アレクシは京平達に合流するためにタクシーで帰宅している。

そんな訳で今、五人は萌の部屋に居た。

京平を見て、その背の高さに驚くアレクシに恵一が説明する。


「三人ともバスケに力いれてるからね。この子達の高校って全国でも結構有名なバスケ強豪校なんだ」


「ああ、どうりで。それにしても、二人の間に入るとリョウマって捕まっちゃった宇宙人みたいな小ささだね。いつも三人でツルんでるの?」


込み上げる笑いを堪えながら-実際にはこらえられていないが-アレクシが尋ねた。

恵一にも何となくわかってきたことだが、アレクシは柔和な顔をして中々口が悪い。

ただリョウマとは初対面の恵一にも、笑顔が人懐こくやんちゃそうな可愛いらしい様子のリョウマを見ていると、からかいたくなる気持ちはなんとなく理解できた。

根本ねもとの方が既に黒くなったド派手な金髪頭をヘアピンで撫で付けるように留めている。校則がゆるいからこそ許されるヘアスタイルもよく似合っていた。

垂れた目尻が父親の瀬口そっくりだが、今はその目尻を釣り上げて不機嫌そうにしている。


「だから、俺はお前が嫌いだよ!てか、話変わるけどわざわざ絵に起こさなくても、その子の特徴だけ萌に伝えるってのじゃダメだったの?」


「人の顔の美醜に全く無頓着なこいつにいくら説明しても多分無駄だろ。年齢くらいしか把握できなそう」


京平にそう言われてしまった萌はと言うと、何となく居心地悪そうにしている。


「ああ、まぁ、そうだな」


「一度絵に起こしておけば、事情を説明しなくても絵を見せるだけで第三者に捜索をお願いできるしね。身元を特定しやすくなるよ」


「なるほど」


アレクシの言葉にみんなで納得した。


「じゃあ、アレクシ、お願い」


「うん」

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