第79話 Precognition 6

気づいたときには額と額が触れ合っていた。


「わわっ」


びっくりして後ずさった足がもつれ、尻餅をついてしまう。


一瞬、キスされるかと思った。

驚いてアレクシを見やると、先程の少しかがんだ姿勢のまま静かに恵一を見つめている。


慌てて立ち上がった萌の姿が視界の端に見えたそのとき、異変は起こった。


「うっ…」


軽い頭痛の後、恵一の頭の中に突然、一人の少年の姿が浮かんだのだ。

多分、小学校中学年くらいの、顔立ちの綺麗な子だった。


「兄さん?」


はっと我に返ると、自分の隣には心配そうにこちらを伺う萌がいた。

床に膝をつき、触れることのない手を添えて、恵一の背中を支えようとしていた。


(何だ今の……)


「今の子、誰?」


恵一の心の声と被るようにめぐみが言う。

見てみると、めぐみも瀬口も恵一のように頭を押さえて何かを考える顔つきだった。

怪訝な顔で事態が飲み込めていない様子なのは萌一人だけだ。


「さっきのカメラ映像から視えたものだよ。僕は他人よりも視えるものが多いから。この子に心当たりあるかな?」


アレクシにはあの真っ暗な映像から今の少年の姿が見えたらしい。


(嘘だろ…)


ひどく驚きながらも、少年に心当たりの無い恵一は首を横に振った。

瀬口もめぐみも同様に心当たりはないらしい。


「そう。じゃあ、メグミさん、セグチ。二人とも絵は得意? 特に人物画」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る