第68話 灰の瞳の青年 6

「……君、お二人をご案内して。私は警察に連絡を入れるから」


男性医師は今にもため息をつきそうな態度で言った。

そうしたいのはこちらの方だ。勉強ができるのと頭がいいのとは、必ずしもイコールではないらしい。


自分の隣で目をギラつかせて医師を見下ろし始めた萌に、恵一は冷や汗が流れる思いだった。


「萌、抑えて、抑えてー」


しかし、努力も虚しく変わらない喧嘩腰で萌は言った。


「もう入れたよ。あなたはここで待ってろよ。もうすぐ警察が来ると思うんで来たら呼んで下さい」


いつもあまり表情のある子では無いが、実は好き嫌いがハッキリしている。

基本、友人への態度は優しいが、嫌いな人間への態度は時々恵一の顔もひきつるほどの冷淡さだった。


案の定、普段から頭を下げられることに慣れているだろう医師の顔は屈辱に歪んでいた。




***



苦労の多そうな看護師に付いて行くと、モニタールームはナースセンターの一角にあった。

ドアを鍵で開け、中に入る。


監視カメラの映像自体は受付横のモニターでも見ることが出来るようだがこの部屋の中では病院全体のカメラを一括で管理しているようで、受付の端末よりもずっと映し出される画面の数が多かった。


「こちらにお掛け下さい。すぐに再生しますので、少々お待ち下さい」


気の毒になるくらい慌てて看護師がパソコンを操作し始めた。

映像を該当部分まで戻し終えると、どこかへとまたパタパタと走って行き、何やらコードのような物を手に戻って来る。

そして、パソコンとそなえ付けの大型テレビとをそのコードでつないだ。

ひたいに汗が浮かんでいる。


「すみません。お待たせしました。再生しますね」


看護師はパソコンに映る沢山のカメラ映像のうち、一つをクリックする。


するとクリックされた映像だけがテレビ画面に大きく表示された。


「最後に石橋さんの姿を見たのは私なんです。…あ、これが私です」


映像を見ながら看護師は言った。

顔までは見えないが確かに目の前の彼女に似た背格好の女性が病室のドアを一つひとつ開けながら廊下を歩いて行く。


全体的に薄暗い映像の中で、彼女の白く華奢な身体だけが浮いて見えた。


再び数回マウスをカチカチと言わせ、移動する彼女を追うようにカメラを切り替える。


「ここが石橋さんの部屋です」


恵一の病室の入り口を左端にとらえたカメラ映像を、三人は見つめた。

見回りを終えた看護師が恵一の病室から出て行き、カメラの枠の外へ消える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る