第67話 灰の瞳の青年 5
「え、それなのに警察呼んでくれなかったんですか?」
先ほど警察に連絡を入れたとき、リョウマの父は随分と驚いていた。
まだ病院から通報は受けていないと言っていた。
「いいえ、いいえ!まずはご家族の方にご連絡をと思いました。当院のスタッフも全力をあげて石橋さんを捜索しておりますので、どうかお二人にも今一度心当たりの場所を探していただきたいんです。まだ石橋さんがご自分でここを去ったと言う可能性もありますし、もしかしたらご家族の方が石橋さんを連れて……」
男性医師はここまで言ってようやく、失言に気づいたのだろう。隣の看護師はその少し前から青い顔で慌てていた。
「俺たちが兄さんを連れてったって言いたいんですか? 治療が必要なのにそんなことするわけ無いでしょう。それに、さっきと言っていることが違うじゃ無いですか。兄さんは自分で動けるような状態じゃ無いんですよね?」
警察を呼ぶと目立つ。
事を大きくしたくないのが見え見えだった。
出来るなら恵一とその家族が起こした勝手な「脱走」と言うことにしたいのだろう。
不信感を露わにした表情で萌が尚も医師に詰め寄った。
「じゃあ、監視カメラは無いんですか? それ見たら誰が何したか一発でわかるでしょ」
「あ、はい。それが監視カメラの調子がおかしいんです。石橋さんがいなくなっただろう時間だけ画面が真っ黒になって、何も写ってないんですよ。それで外部の何者かが関与した可能性もあり得ると……」
「それなら、尚更警察呼ぶべきでしょう」
もう、呆れてものが言えなかった。
「…それ、見せて下さい」
大きなため息の後、萌が言った。
「え?」
「監視カメラ」
「いえ、すみません。何分その…他の患者さんの個人情報保護の点でも…はい」
「兄さんがいなくなった時間だけで結構です。それに監視カメラ、写ってないんですよね? だったら他の患者を見ようが無い」
「まあ、そうですが。…だからこそ、ご覧いただいても何も得られるものは無いと思いますが」
「それでもいいです。案内して下さい。お願いします」
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