第56話 視える甥 5

萌の声を受けて、振り返った姉が言う。

「けーちゃん。ちゃんとついてくるのよ!」



***



「あのー」

ナースセンターにつき、控え目にめぐみが声をかけると、下を向き何かを書き込んでいた看護師の男性が顔を上げた。

二十代後半くらいか。

彼の他に人は見えなかった。

その瞳がびっくりした様に丸くなる。


「はっ、はい」


(ああ、いつもの反応)


小さい頃から姉の側に居る恵一にはわかる。


(今、絶対、「美人だなー」って思ってる…見かけに騙されちゃって)


男の顔が驚きの表情から、でれーんと伸びた笑顔になるまで少し待って姉は続けた。


「夜遅くにすみません。弟が今日事故にあってこちらに入院することになったんですけど……」


その声どこから出してるの⁈と思うようなか弱気で今にも泣きそうな声だった。


「私…気が動転してて、教えていただいた病室を忘れてしまって……」


「わ、わかりました。すぐにお調べしますね。弟さんのお名前は?」


(え⁈身分証明書とか出さなくて良いの?他人だったらどうすんの…)


「あ、わかりましたよ。203号室です」


(ええー。答えちゃったよ)


「あの、もう1つだけ、お願いがあるんです」


「は、はい。何でしょう」


「私…弟が心配で。一目で良いんです。彼の顔を見たくて」


「わかりました。この部屋番号だと一般病床だから、僕がご案内します。ただ、あの本当は色々問題があるので、オフレコでお願いします」


「本当ですか⁈ありがとうございます!嬉しい!」


「いや、お安いご用です」

あははと笑いながら看護師が言った。

本当に嬉しそうな様子だ。

男とは愚かなものだとこう言うときに思う。

自分も男だけど…。

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